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幽霊も暴力も出てこない怖い実話10 過労自殺編

あちらこちらに過労死の多い業界ありましてねえ。
私はあちらこちらにある、とある業界の、とある末席を汚させて頂いてたんでござんす。ありゃ20代前半のことでしたかねえ。

ある日曜、本来、先方さんと一緒に、とある施設に出かけなきゃいけない用事があったんですがね。先方さんってのは弊社に仕事を振ってくれてる人のことでござんす。
その先方さんが来られないってなわけで、私は一人で行ったんですよ、とある施設に。て言うか、20代前半のペーペーに一人で行かすなって話なんですがね。
でね、ホウレンソウってあるでしょう? 報告、連絡、相談つって。私は先方さんに連絡したんですわ。でも先方さん、日曜だからなのか他に用事があるのかなのかは分かりませんが、電話に出てくれやしない。
私はね、その施設のNG事項を伝えたかっただけなんでござんす。

ってなわけで、あくる日の朝に会社から先方さんに連絡しようと思ったら、先方さんがこちらに連絡をよこして来ましてね。
そこで、私はNG事項を伝えようとしたんですわ。そしたらその前に、先方さんが、「今、これこれこうに決まった」とか言いやがるんです。
あらら、「これこれこう」が、NG事項にドンズバ当てはまってまして。私がNGだということを伝えたら、向こうは怒髪天をつく勢い。ふざけんじゃねえ、聞いてねえ、決まっちゃったんだよ、責任取れ、と。
いやいや、待った、待った。電話に出なかったのはそっちでござんしょ? 折り返さなかったのはそっちでござんしょ? なんてことは通用しませんぜ。なんつっても過労死が尋常じゃないほど多い業界でござんすから。
先方は、私の上司にそのことを報告。私の上司は、上手に話をはぐらかして何とか収めたんでござんす。

でも、先方さんがまたもや私に電話をかけて来ましてね。今度は、先方さん+先方さんの上司+先方さんのお客さん、がん首揃えてまして。
私は上司から、「これこれこういう風に収めた」と聞く前に連絡を受けてしまったもんですから、【私がいま先方に伝えている話】と【私の上司がさっき先方に伝えたて収めた話】に矛盾が起きちまいまして。
ようは、嘘で誤魔化したことがバレたんですわ。
て言うか、そもそも嘘つくなよ、と。いやいや、そもそも先方が最初の電話に出りゃ、折り返してくれりゃ、嘘つく必要もなかったんでござんすがね! ね! ね!
 
そしたらその晩の10時過ぎですか、先方さんから「今から送る資料を企画書に落とし込んでおいてくれ。あすの朝8時からそれについて打ち合わせ」と連絡が来て、ファックスが100枚届いたんです。ファックスですよ、ファックス。まあ、夜10時に会社にいる時点で、おかしな業界なんですがね、
私は、徹夜で企画書に落とし込みましたよ、データ化しましたよ。
 
ギリギリ翌日の朝8時前に間に合いまして、先方さんに連絡したんでござんす。
「打ち合わせは午後1時になった」
先方さん、そう言いやがったんです。
んで、午後1時に打ち合わせに向かったら、先方さんは「この資料は必要ない」つって、企画書の中から、私が徹夜でまとめた資料をごっそり破り捨てたんでござんす。
 
いじめです、いじめ。報復です、報復。
 
その数週間後でしたか、その業界での過労自殺が報じられましてね。そのニュースに関して、とある解説者が「大手だけでなく大手にぶら下がってる会社を含めると、過労自殺は相当多い」とおっしゃってたんでござんす。
私もギリギリを歩いている気がしましたよ。くわばらくわばら。

ところが、その後、くだんの先方さんと別件の打ち合わせをしてるときでしたっけね。
その先方さんが突然涙を流してこう言ったんです。
「寝たい。いまはただ寝たい。寝たい。ぐっすり眠りたい」
驚きましたよ。30過ぎの男が昼間の銀座で、人目を憚らず泣くんですからねえ。

しばらくしたら、先方さんもあえなくあの世に逝ってしまったんでござんす。いじめたり報復したりする人ですら、自分で命を断つんでござんすねえ。
ちなみに私、通夜にも葬儀にも行きませんでした。私なりの報復です、報復。
何が原因で死んだかは知りませんがね、もし仮に過労が原因なら、死ぬこたぁねえ、と。逃げろ、と。逃げたらクズ扱いされるけど、だから何だ、と。命と社会的評価、どっちが大切か、と。
んなもん命に決まってまっせ。


AUskeえいゆうすけ

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