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絵描きの保護猫さまとの出逢いと別れを綴ってみた (全四回) その三


仔猫をさらう?


化学系企業の研究所に勤めていた時のお話です。
昼休みを迎えると、それぞれの研究室から、社食やカフェテリアにゾロゾロと研究員たちが向かいます。
私は今も昔ものろまは相変わらずなので、実験着から私服に着替えるのが他人よりも遅く、建物の外に出る時は、大抵ひとりでした。
今日はうどんでも食べようか、などと考えながら、敷地内を歩いていたのかどうかは、憶えていませんが、芝生の奥の垣根の下に小さな猫さまを発見しました。
以前ウチの子だった「太一」(1話の主役) とちょっぴり似ています。
目が合うと、その子は「にぃ〜」と口角を上げました。
「にぃ〜」と返すと、再び「にぃ〜」と応えます。
腰を落として目の高さを合わせると、にぃにぃ言いながら何の躊躇いもなく、私の膝にからだをこすりつけました。
もう、私の理性が……
昼食への関心はとっくに忘却の彼方、この子をどうしようかと……
そう、私はこの子をさらうことに決めました。
だって、金色の目をキラキラさせながら、抱き上げられるのを待っているように、にぃにぃと見つめ続けるのですもの。



実験室に軟禁?


理性崩壊した私は、この仔猫さまを抱き上げると、実験室の中にある暗室にもなる部屋に閉じ込め、実験中のランプを点け、社内の生協まで走りました。
ランプを点けたのは、ドアを開けられないためです。
そこで180mlの牛乳パックを手に入れ、走って実験室に戻りました。
掟破りもいいところです。実験室に猫さまを入れるなんて、あり得ないことは分かっていました。結果的にはバレちゃったのですけどね。
仔猫と言っても、すでに乳離れしている程度の子。牛乳を飲ませてもいいだろうと判断して、シャーレに注ぐと、待ちかねたように勢いよく飲みはじめました。

「ここまで連れてきた責任は重いぞ」と、私が助手をしていた研究員が偉そうに言いましたが、彼は上長に内緒にしてくれました。

問題は、守衛室の前を通る時でした。
退出時は守衛さんに手荷物の中身を見せなくてはなりません。
紙袋に仔猫さまを収納し、その上に上着をたたんで乗せて、その袋を広げてみせました。
声を出すなよ、動くなよ、と祈りながら……
無事、通過しました。



手荷物なの?


さて、問題は電車です。
通勤電車はこの地域の超ローカル線。
駅はほぼ無人で、降車時には定期を車掌さんに見せる、というローカルぶりでした。
あ、信じられませんが、コレは実は、今もあまり変わっていません。無人なので、ICカードをタッチするのを、車掌さんが見届けるのです。
けれど、大手企業が豊富で潤った町なので、子育てし易く人気が高い地域で、地元住民や通勤者で、電車はいつも混雑していました。
車両が三両しかないのも原因ですけれど。

この電車に、仔猫さま入り紙袋のまま乗車したわけです。
ローカルな単線はガタンゴトン走ります。
すると、ガタン! と停まるべきでない場所で、急停止したのです。
それまで、経験したことのないだろう揺れに、モゾモゾと袋の中で動いていた子は、驚いたのか、一気に袋の外に躍り出ました。
あっ!
私は、のろまのわりに素早い動きで仔猫さまを抱き上げ、注目を浴びてしまった回りを見回し、訳のわからない照れ笑いを振り撒きながら、開き直ったように、「いい子にしててね〜」などと、話しかけながら、電車が動くのを待ちました。

急停車の原因は、たこ焼き屋さんのパラソルが、線路上に突風に飛ばされたからでした。
事故にならなかったから笑い話になるけれど、実にローカルな原因でした。
私は、最後尾車両の車掌室の見える所に立っていたのですが、処理をして戻ってきた車掌さんが、マイクで乗客にお詫びと説明をしている最中に、車掌さんとバッチリ目が合ってしまいました。その目は、私の視線から外れると、胸にしがみついた小さな生き物にスライドし、再び私の目に戻ってきました。

降車駅に着くと、私は狭いホームに降り、車掌さんに定期を見せます。
すると、車掌さんがものすごくものすごく済まなそうに、
「あの…… これ、猫……ですよね?」
確認しなくても分かりきっている仔猫さまを指差して、小さな声で尋ねるのです。
「はい、すみません。そのまま電車に乗せてしまってごめんなさい」
ルール違反をしてしまったことを謝ろうとしたら、
「いや、猫は手回品なので、運賃を350円いただきます」との答えでした。
大人運賃320円より小さな仔猫さまの方が高いのかぁ、と素直に思いました。
でも、あの時の車掌さんも、きっと猫さま好きだったに違いないと、今も思っています。

こうして、「コブ」は我が家の子になったのでした。



意外な嗜好?


コブはヤンチャな男の子で、甘えっ子のわりに、頻繁に外に出たがりました。
お隣の「梅ちゃん」(2話の主役) のお姉さんも、梅ちゃんが逝ってしまったあと、長い間寂しそうだったので、コブの登場は、お姉さんをも元気づけたようです。
自由なコブは時々、お姉さんのお家にお泊まりをしていました。
コブはメロンが好きでした。
その夏に、たまたま頂いたメロンに夢中になったのでした。
だから、時々仕事帰りにスーパーに寄って、半身のメロン (安いやつ(≧∀≦)) をコブ用に買ってきたものです。
隣のお姉さんに教えると、お姉さんもメロンを買うようになったらしい。

ちなみに、「コブ」とは、連れ帰った日に、活発過ぎてクルクル踊っているように見えて、「鼓舞してる!」と表現したことから、そのまま名前になってしまったという、安直な命名でした。


引き摺った突然の別れ


コブが我が家の子になってから8ヶ月ほど経ったある晩、ギャァギャァというすごい猫の鳴き声で目を覚しました。コブに似ている気がして、玄関に駆けつけると、弟も駆けつけてきて、二人で外に飛び出しました。
真夜中なのに、川を見つめている不審な男性がいたので、私達は、
「今、猫、見ませんでしたか?」と尋ねたら、「知らない」と言って、去って行きました。
どっちが不審者かわからないけど、何だかその人が怪しげに感じました。
弟と死に物狂いで、ご近所迷惑にならないように、コブ〜、コブ〜と呼びながら探し回ったけれど見つからず、さっきの男性に川に落とされたのではないかとも疑い、川沿いを目を凝らし下りながら、気づくと目の前に海が広がる河口に来ていました。
隣のお姉さんのところにお泊まりをしていることに、全霊の希望を託したけれど、コブはいませんでした。
それから何ヶ月も、私は不審者のように他人の家を覗き込み、狭い路地裏に入り込み、自宅の屋根の上に登り (2階の窓から1階の屋根に降りられるのです) 、近所を見回すという行為を繰り返していました。
けれども、とうとうコブは見つかりませんでした。
張り紙効果はありませんでした。
いなくなったのは春先。
男の子だから、お嫁さん探して流れていったんだよ、って言ってくれる人もいました。
どこかで無事にいてくれればいいって素直に思えるまで、ずいぶんと時間がかかりました。

最後まで見届けられなかったこと、今もわだかまりが無いといえば嘘です。
でも、あのあと無事に幸せにコブらしく人生を生きたと信じたいです。

猫さまが、みんな幸せになりますように。


「鼓舞(コブ)」




まだ雪もちらつくこともある春先に始動した、猫助けのプロジェクト。

中岡はじめさんと橘鶫さん企画の、鳥と恋の饗宴に投句された句が句集になります。
掲載されるのは、猫さま助けに賛同してくれる優しい仲間達の句や絵や書。特大おまけは猫さまへの愛溢れる句。
アポロくんのnote進出当初からの、社会貢献魂と鳥恋俳句がガシャンと合体して、すでに形が整っております。

かわいい幼気な愛すべき猫さまに、幸せの権利が平等に与えられることを、心から願っています。



鳥と恋の饗宴句集プロジェクトについての、はじめさんの記事

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句集の収益の寄付先についての、はじめさんの記事

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アポロのチャリティー活動について

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アポロの寄付先猫リパブリック訪問

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最後まで見てくださってありがとうございます。

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