世界倒産図鑑 感想
ざっくりあらすじ
エンロン、山一證券、タカタなど日米欧の大企業の倒産事例を25件分析したもの。
では、特に興味深かったところを本書から拾っていきます。
ウェスティングハウスの倒産。長所が短所に。
ウェスティングハウスは1868年に創業しました。
その後、交流送電システムの開発に成功、1957年にはアメリカ初の商用原発の稼働に成功し、技術力を武器に事業を多角化させ名門コングロマリットになりました。
しかし本書にこの企業が記載されていることから分かる通り、2017年3月に倒産してしまいました。
この倒産には、「自社の高い技術力への過信」があったのではないかと筆者は指摘しています。
この企業の歴史を敢えて抽象度を高めてまとめるとするならば、「技術優位
性がある歴史的名門企業が、その技術力に依存し過ぎて、環境変化に対応せ
ずに沈んでいった」と言えるでしょう。
(honto P154)
元々、高い技術というものは「長所」だったのに、いつの間にかそれが「短所」になり倒産に繋がってしまうという構図が興味深いです。
逆に「短所」が「長所」につながる例もあります。
「マンガ脳の鍛え方」というジャンプの作家さんたちのインタビュー集があります。(昔、別のnoteにこの本の感想を書いたのでリンクを貼っておきます。)
天野明さん(家庭教師ヒットマンREBORN!の作者)はインタビューの中で、「動きを描くのが本当に苦手」だとおっしゃっています。
矢吹健太朗(ToLoveるの作者)さんも、
インタビューの中で「女性キャラを描くのが本当に苦手でした」とおっしゃっています。
「REBORN」は「アクションシーン」に定評がある漫画ですし、「Toloveる」も「可愛い女性キャラ」が人気の漫画です。
それなのに、その作者はその部分が苦手だとおっしゃっているのが面白いです。
おふたりとも「短所」だと感じているからこそ、その「短所」を克服するために鍛錬を繰り返し、結果的のその「短所」が「長所」になったのではないかと思いました。
ウェスティングハウスのように「長所」が「短所」になる場合もあれば、天野さん・矢吹さんのように「短所」が「長所」になる場合もあるのが面白いです。
千代田生命保険の倒産。バキ7巻。
千代田生命保険は1904年に設立された生命保険会社で、戦前の段階では明治・帝国・日本・第一に並び5大生保の1つを担っていました。
倒産の流れとしては、
1.戦後の過当競争によって中堅グループに埋没。
2.大手に返り咲くために、高利回り商品を売りまくる+ハイリスク・ハイリターンな投資先開拓。
3.バブルが崩壊し、高利回り商品の支払いは残っているのに、リターンを期待していた株は下がり、投資先はほとんど回収不能状態に陥り運用がマイナスになった。
4.2000年倒産。
筆者は倒産の原因は、経営陣が「見たいものしか見ていなかった」ことにあるのではないかと指摘しています。
かつて大手だったにもかかわらず、今や中堅生保という立ち位置に甘んじ、さらにトップとの差が開いていく、ということに対する焦りと屈辱。そして、目の前にはややリスクが高いけれど、競合が着手しておらずニーズのある攻め口があります。「それをやれば一発逆転ができるかも知れない」と感じさせるバブル特有の空気も作用し、他社よりも少しでも先んじて意思決定を進めたい、という気持ちが芽生えたのでしょう。
このような状況になると、人間は「見たいものを見る」という状況になります。「株価が下がるかも知れない」「貸し倒れになるかも知れない」という可能性は目に入らずプラスシナリオの情報ばかりが目に入り、その思考は一層強化されていきます。
(honto P298,P299)
この「見たいものを見る」という記述を見たとき思い出したのは、
「バキ7巻、第58話:勝てるッ」です。
超絶ざっくりこの話を説明をすると、
ドリアン(超強くて超悪い奴)と加藤(少し強い空手家)が戦っています。そこで、加藤はドリアンの金的を潰し、目を潰し、ドリアンを圧倒します。
しかし、それはドリアンに見せられていた催眠術で、実際にはドリアンは全く傷ついていませんでした。ドリアンはこう言います。
「君の欲求は現実より遥かに劣るこうあって欲しいというわたしの映像を造りだし思うさまわたしを打ちまくったハズだ気の毒なことに」(7巻)
その後ドリアンは加藤をボッコボコにします。
千代田生命保険も加藤も、相手との差を受け入れられず、現実ではなく「自分が見たいものを見る」ようになってしまった結果、破綻したのではないかと思いました。
(ちなみに、加藤はこのあと神心会という空手グループのネットワークを使いながらドリアンにしっかりリベンジを果たしているからすごい。)
以上