見出し画像

探検!ゲーム条例制定後の香川県議会の議事録を暴こう!(2020年版)2/6

香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(以下、ゲーム条例)制定後、香川県では、その影響を受けた施策が次々と施行されている。
ゲーム条例を成立させた根源的な考え方とは何か。その考え方の何が歪んでいるのか。公開されている議事録を精査することで、それを少しでも把握したい。本稿は、それを目的に作成した。
当然、良い点があれば紹介したかった。しかし、「探検」の結果、それは叶うことはなかった。むしろ、頭が痛くなる内容ばかりだった
その頭の痛くなる発言が詰まっている議事録を、解説付きで暴く。

この階層では、ゲーム条例と香川県内の学校におけるICT教育との関係性を中心に探索する。爆弾発言という怪物に斃されないように十分注意しよう。

[ おことわり ]
議事録は、できる限り原文のまま掲載していますが、文章の前後関係の意味を通すため、文意を崩さないよう編集をしています。何卒ご了承ください。

登場人物

第2階層-1:香川県の「ゲーム症“予防”施策」とICT教育との関係

本稿執筆時点における、ICT分野とゲーム症(『ゲーム障害』の正式名称)との関係は、以下のとおりだ。

・内閣府サイバーセキュリティセンター発行の啓発資料「インターネットの安全安心ハンドブック 個人版 ver.4.10 (最新版)」には、依存症の文字は1つもない
・ICT機器の健康的な運用に関する知見(以下、ヘルシーコンピューティング)を詳細に記した業務用ガイド、厚労省謹製「情報機器使用のためのガイドライン」には、依存症の文字は1つもない

もし、わずかでも関係があるなら、上述した文書に掲載されていなければおかしい。つまり、ICTの利活用の懸念において、ゲーム症は完全に畑違いなのだ。それを踏まえて、議事録を見ていこう。

鏡原 慎一郎:
ネット・ゲーム依存症対策条例においても、フィルタリングや使用のルール作り、危険性の指導といったことは、行ってきた内容だと思っています。
氏家 孝志:
ゲーム条例では、第18条で定められている1日あたりの利用時間など家庭におけるルールづくりが特に注目されておりますが、それのみにとどまらず、インターネットの正しい活用法についての教育、啓発についても推奨されており、今後において本条例を根拠としての施策の充実が求められていると強く考えております。

ITサービスの長時間利用がゲーム症を起こすと断言している科学的根拠はないし、フィルタリング(ペアレンタルコントロール機能の一部)、SNS経由で誘拐されるなどITサービスの使用において懸念されるリスクは、情報セキュリティーやITリテラシーの啓発で対処する分野なので、ゲーム症になりにくくする対策と全く関係がない。このような科学的根拠および技術標準に則らない強引なこじつけでICT教育をされると、当の子どもは、少なくとも、学校では、情報セキュリティーやITリテラシーを正確に学習することは叶わない

歪んだ用語解説

大山 一郎:
他県の事例で、オンラインゲームの中のコミュニケーション機能を利用して、小学校の女子児童が、その中で知り合った人に誘拐される事件がありました。これは大きな問題だと思っています。
(中略) 課金というシステムがあり、以前から問題になっています。小学生同士でお金の貸し借りをして、小学校の中で喧嘩になる事例や、親に黙って課金をしていって、親が気づいたときにはびっくりした、といったことを県内でもいろいろなところで聞くのです。

大山氏が指摘の分野は、情報セキュリティーやITリテラシーの啓発で対処する分野であり、依存症(行動嗜癖)を扱う精神医学の分野は畑違いだ。また、「小学校」とあるので、この答弁における具体的なビデオゲームのタイトルは『フォートナイト』が想定される。しかし、同作品に対する過剰な課金の原因は「ゲーム症になったから」ではない。これは、きちんとした学術調査*1で出ている。
ちなみに、ゲーム症になると廃課金ユーザーになると断定した科学的根拠は、本稿執筆時点で、世界中のどこを探しても存在しない。つまり「ビデオゲームを遊びすぎると廃課金ユーザーになる」と断定する表現は、ウソだ。

上の拙稿でも触れているが、モノが違うだけで、小中高生の世界のメインフィールドである学校のクラスの人間関係を維持するために、娯楽系サービスの何かが触媒になることは、昔から変わっていない。特に、キッズの場合は、その世代で不動の人気を誇る漫画雑誌で、この触媒について盛大に特集されていたり推されていたりする。そのような環境で、キッズに対して、この触媒を無視しろと要求することは困難だ。

暴論となるが、仮に『フォートナイト』が、プレイする人全員に対してゲーム症を引き起こさせ、犯罪行為を犯してまで金銭をアプリ内科金につぎ込ませる“悪魔の化身”と断定するなら、それへの接触を幇助した漫画雑誌も発禁扱いにしなければならない。しかし、『フォートナイト』は、悪魔の化身ではない。ICTを使って作られた、ただのツール(アプリ)だ。実際、同作品は、生きた英語の学習ツールの教材としても使われている。要は使い方なのだ。

つまり、昨今のキッズは、フォートナイトを通じてクラスの人間関係を維持、向上させている使い方をしているだけに過ぎない。そのような子どもの置かれた環境も、ITサービスの運用形態の多様性も無視し、ITサービスそのものや、それに備わる機能を批判する言動は、著しく思考にバイアスがかかっていることと同義だ。

工代 祐司:
県教育委員会として、ネット・ゲーム依存予防対策学習シートによる啓発ということで、2020年8月に保護者に家庭でルールを決めましょうと説明しています。

その学習シートは、啓発どころか誤った知識しか読者に与えない代物として、精神医学の専門家から散々な批判を浴びた*2 代物だ。実際、精神医学の知識のない人間が少し論理武装しただけで、下のスライドにあるような指摘が簡単にできる。そのような杜撰な内容で「啓発資料」と標榜すること自体が、笑止千万だ。

実物が以下のリンク先で入手できるので、その内容の酷さをぜひご覧あれ

つまり、当該資料は、本来あるべきICT機器の運用に関する家庭内ルール作りには役に立つどころか害になる内容だ。

論理武装すると、精神医学の分野の素人でも間違いが簡単に見つけられる

教師用の授業ガイドまで、内容が派手に間違っている…

工代 祐司:
また、幼児の保護者を対象としたスマートフォン等の適正利用に関する啓発活動も昨年から開始していますが、今年度はDVDビデオをつくって啓発していくということです。

件のDVDビデオ収録コンテンツについては、以下ツイート内のリンク先で一部が視聴できるが、肝心のゲーム症対策コンテンツだけがなぜか非公開だ。

教育委員会監修の自信作なのだから、完全公開を拒む理由は一切ないはずだ。つまり、公開すると批判の嵐を受ける要素があるわけだ。そのようなやましいコンテンツなら「最初から作るな」と言いたい。

工代 祐司:
香川県ネット・ゲーム依存症対策条例では、利用時間の上限等を目安として示し、家庭におけるルールづくりを推奨するものと理解しています。

そのように考えているのなら、明確な科学的根拠も診断基準も定まっていない状態で、法令として、ビデオゲームを含めた個人向けITサービスの利用時間を定めるなと言いたい。

法令化することとは、成文化した事項に対して法的拘束力を付与することを意味する。法律知識がふんだんに問われる地方公務員上級職採用試験を通過した人が、そのような影響を無視して政策を執行するとは、愚行としか言えない。

第2階層-2:情報セキュリティーやITリテラシーまでも、ICT機器の使用に恐怖を植え付けるために使う罪深さ

2021年3月12日、香川県は、2020年9~10月に行った、県内の小中高生を対象としたICT機器の運用状況に関する調査結果の速報を公開した。しかし、香川県(教育委員会)からのコメントを中心として、そのニュースの内容に肌感覚的な違和感を感じた。

それもそのはず、彼らのいう「ゲーム依存症」を「ITサービスの長時間利用」に置き換えれば、意味がスムーズに通り、前述の違和感も払拭されるからだ。このことから、香川県は「ゲーム依存症=ITサービスの使いすぎ」なる誤った解釈をしていると類推できる。
この類推は的中していた。件の調査では、ネット・ゲーム依存症というありもしない病気に対して、情報セキュリティーやITリテラシーを強引にこじつけた質問を設けてデータを取っていたからだ。

情報セキュリティーやITリテラシーの不足が原因となるトラブルの内容を尋ねる質問に、なぜか、それと原因が全く関係のない選択肢が混ざっている

イミフな調査

このような調査の内容が是とされ続けられてしまうと、ICTの知見が、香川県自身によって歪められてしまう。
その影響は、全世界に及びかねない
今、あなたが使っているインターネットは「管理する主体が存在しない」特徴がある。この特徴がある以上、このコンピューターネットワークのユーザーによる誤ったICTの知見に基づく行動がされるだけ、インターネットは、その脆弱性と危険性が増してしまう性質を有している。この性質と、過去の事例*3 を鑑みれば、情報セキュリティーやITリテラシーの知見が歪められた形で教え込まれた香川県在住者が多くなることは、香川県そのものがセキュリティーホールとなる恐れが否定できないことを意味する。まっとうな倫理を備えているなら、自分の住む地域や愛する故郷が、知らない間にサイバー犯罪の一大拠点と化すことを肯定できる人間はいないだろう。
ゆえに、ゲーム条例による香川県のICT教育の方針の歪みを、私は重大な懸念と認識している。

一方、何もかもがデタラメな「ネット・ゲーム依存予防対策学習シート」内のチェックテストをそのまま使った質問で、ゲーム症であるか否かがわかるとは全く思えない。当該テストの内容は、勝手にオリジナル版から改変されているうえ、県民向けに配布した広報誌に掲載されていたそれと一致している。以下がその現物だが、日本語からして意味不明のテストで、どうすれば「正確な」ゲーム症疑いの人間の数が把握できるのか、甚だ疑問だ。

前述したが、ペアレンタルコントロール機能を基軸として構築するICT機器の運用に関する家庭内ルールは、情報セキュリティーやITリテラシーの観点から見ても、ゲーム依存症の「予防」「再発防止」のために存在するものではない。少なくとも、ペアレンタルコントロール機能は、技術的には、家庭の個々の事情によって異なるICT機器の運用ルールの方針を、コンピューターに対して簡単に一括して教えるためだけの存在だ。ICT機器の運用ルールに問題があるなら、「教える内容」という名の仕様書となる、親子間の話し合いの内容に問題がある。それすらもわかっていないのが、香川県なのだ。

第2階層:議事録内大探検の暫定結果

総括すると、ゲーム条例を改廃しない限り、香川県の小中高校におけるICT教育は、香川県自身によって蹂躙される

実際、香川県では、ゲーム条例によって、18歳未満の子どもによる、学校の課題以外で行う趣味のデジタルコンテンツの制作は、ジャンルを問わず、そのすべてが、時間制限の対象になった。

[ 香川県ネット・ゲーム依存症対策条例 第18条 ]
2. 保護者は、(中略) スマートフォン等の使用 (家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く) に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするよう(中略)努めなければならない。

第1階層でふれたように、ゲーム条例の思想「学業成績の向上につながらないデジタルツールの利用はすべて有害」があるから、このような状態になっている。

スマートフォン用のアプリのみで商用誌のコンテストに入選できる品質の漫画作品を制作できる*4 昨今、学校の課題以外はすべて、非デジタルツールを使った創作活動に対しては寝食を忘れて取り組んでも「無問題」とする一方で、デジタルツールを使ったそれに対しては「問題あり」として不当な時間制限を課すというこの選別思想には、義憤すら覚える。

遊びは最強の教育ツール。それがビデオゲームであっても

工代 祐司:
私たちが取り組んできたことは決して間違ってはいないと思いますし、教育の根本に関わることだと思っています。

それにもかかわらず、香川県自身が、このような結果に至るまでになった自身の教育方針について「俺たちは決して間違ってなどいない!!」と妄想し続けるなら、香川県議会および香川県(教育委員会)は、「学びとは何か」のレベルで、教育の根本からして歪んでしまっていると痛烈に県内外から批判されてもやむ無しだろう。

だからこそ、以下のことを警告したい。

1.香川県外に在住していて、かつ、ゲームプログラマーなどクリエーティブ分野のITエンジニアや、デジタルコンテンツのクリエーターになりたい夢を持っている中学生諸君は、香川県の高等学校へ出願してはならない
2.香川県内に在住していて、かつ、将来、ゲームプログラマーなどクリエーティブ分野のITエンジニアや、デジタルコンテンツのクリエーターになりたい夢を持っているお子様がいらっしゃる親御さんや学生諸君は、可能な限り、早急に、香川県から転出することを強く推奨する


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ご意見やご感想は、著者 (Twitter:@Attihelo37392M)までいただけると幸いです。

キミは無事に第2階層を踏破できた。
次の階層へ向かう準備ができたなら、以下のバナーにアクセスしよう。

参考資料

・香川県議会議事録 2020年7月2日:令和2年6月定例会、文教厚生委員会[教育委員会]、本文
・香川県議会議事録 2020年7月8日:令和2年6月定例会 (第3日)、本文
・香川県議会議事録 2020年7月9日:令和2年6月定例会 (第4日)、本文
・香川県議会議事録 2020年9月30日:令和2年9月定例会、文教厚生委員会[教育委員会]、本文
*1 Addictive Behaviors 「Fortnite microtransaction spending was associated with peers’ purchasing behaviors but not gaming disorder symptom」(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0306460319310585)
*2 コンテンツ文化研究会「ネット・ゲーム依存症対策オンライン勉強会(2020年8月21日版)」(https://www.youtube.com/watch?v=MN2xrFaOO5g)
*3 Internet Watch「『オリンピックでサイバー攻撃の標的に?』横浜国大・吉岡氏が“最新の攻撃傾向と危険性”を語る」(https://internet.watch.impress.co.jp/docs/interview/1222113.html)
*4 ジャンプルーキー編集部ブログ「iPhone 6sで描いた漫画が『矢吹健太朗 漫画賞』の奨励賞を受賞!新人漫画家・あつもりそうさんインタビュー!」(https://rookie.shonenjump.com/info/entry/201704_blog)

よろしければサポートをお願いいたします。いただいたサポートは、関連コンテンツの制作費に充てさせていただきます!