『ヴェノム ザ・ラストダンス』暫定今年ナンバーワンの面白さ…
何一つ期待せず見た。ヴェノムは映画というか物語の面白さというか、トムハのエディと、萌えキャラのヴェノムのハートフル笑なやり取りを見れたらおkな私だったが、かなり期待を裏切られた形だ。勿論、良い意味で。私の周囲で見た人の評価と打って変わって、私の評価は文句の無しの傑作、下手すれば、今年度暫定ナンバーワンの実力を持った作品である(当社比
この映画は、モヤモヤする点が多々あるのだが、なんだかそれも許せてしまう。例えば、今作で鍵を握るコーデックスと呼ばれる物質の設定だが、絶対変じゃね?と思うのは言うに及ばず。色々とおかしい点がある。また、投げっぱなしで全然回収しきれていない伏線など、モヤモヤポイントを挙げれば枚挙に暇がない映画なのだが……世間でいうところの「クソ映画」認定されても仕方ない映画のだが……どうした訳だろう、全くそんな要素が気にならない。寧ろ、そんな些末な問題、どうして映画評論家だの、YouTuberは一々気にするのだろう。見る目がないのかしらん。まぁいいけど。
映画のあらすじ……前作、というかぶっちゃけるとスパイダーマンノーウェイホームから直後で、エディとヴェノムは別のアースから帰還したものの、すぐさまアメリカ当局のお尋ね者に戻ってしまう。しかも、宇宙からは、セフィロスみてーな髪型のボスの指示で、二人の愛の結晶みたいな物質コーデックスを狙う敵が襲来。休む暇なく、みつどもえの戦いに巻き込まれてしまうのだった。あらすじ以上。
宇宙からの敵がまた恐ろしいほど強く、あのアベンジャーズも対応しきれないのではと思われるほどの再生能力&破壊力を持っている。ついでに、標的の殺し方がマーベル史上最もえげつなく、血がドバドバ出る。どんな困難もくぐり抜けてきたエディとヴェノムのコンビでもご多分に漏れず全く歯が立たない有様で、見ていて「こりゃいかん、さっさと遠くに逃げておくれ」と願わずにいられないほど、過去一でヤバい。
それでも、この映画は、絶対に勝てない敵相手であろうとも、敢然と立ち向かう男たち、女たちのヒロイズムが描かれる。理由はもう簡単で、弱きものの為である。作中、登場する仲良しヒッピー家族だったりするのだが、ここまで直球に、弱き羊を庇護する牧羊犬としてのアメリカ軍(本作の立て付けはどこの所属はよくわからない特殊部隊なのだが)を描いた作品を私は久々に見た。アメリカンスナイパーではないのだけれども。
ある時期から、具体的にいうとバイデン政権あたりから、明確にハリウッドの戦争映画の供給が途絶えたと思う。シリア内戦の反体制への支援をはじめ、ロシアによるウクライナ侵攻に対する支援、最近ではイスラエルのガザ侵攻への介入といった、戦争の題材には事欠かないはずなのに、だ。恰も戦争そのものを忌避するムードの中で自粛をしているかのようだった。そんな中、化け物相手にハンヴィーや攻撃ヘリからミニガンをぶっぱなしてヒャッパーする一方で、あっけなく反撃されてうぎゃーと叫びながらあっけなく化け物の餌食になっていくアメリカ兵の姿は久方ぶりで、妙に新鮮だったことを告白しておこう。
これを今後の大統領選の行方を記す兆候と見るかは、私には断言できないものの、この公開タイミングといい、胸騒ぎを覚えるのは私だけだろうか。もしかしたら今後、立て続けに戦争映画が製作される時代に突入するのかもしれないが、反して、映画の題材となっている現実はどうなっているのだろうか。かつてのアフガンやイラク戦争映画が、どこかやらかしてしまった虐殺の反省を表明するかのようなラインナップだったのを思い返すと……。あまり楽観視できないのだった。もしかしたら、『ヴェノム ザ・ラストダンス』が契機に、戦争映画が増え始めた、ということもあるかもしれない。
本作は、人間側だけでなく、宇宙からやってきたシンビオートもまた、戦争映画的な文脈で描かれるのがかなり強烈だ。私達はヴェノムやカーネイジみたいな異例中の異例しか知らなかった訳だが、彼らにもまた、倫理観や自己犠牲精神があったことに驚かされる。個人的にはそんな感情捨ててしまえと思うものの、劇中ではシンビオートのキャラが新登場しては散っていく、文字通り地獄のような様相を呈してしまう。それが一層凄惨で、どこか現実の戦争じみている。
ただ、一方でこうも思う。フィクションの中でなら、なんぼでも戦争しておけばいいじゃないかと。ムードに負けて、戦争を描けないのもらしくないんじゃないですか、という奴だ。否定はしないが、どこぞの少佐ではないが、私は戦争が好きである。ただし、フィクションに限るのだが。
『ヴェノム ザ・ラストダンス』は、浮世離れした物語を展開している一方で、どこか現実の戦争を彷彿させる点と優れている点で、昨今のハリウッド映画の中ではとびきりレアで、もしかしたら今後のアメリカの在り方すら予言しているのでは、思わせる当たりと色々と優れていると感じる。
ちなみに、私が一番爆笑したのは、ラスベガスで偶然遭遇するチェン夫人とのひと時だ。ここでのヴェノムのダンスが神がかっており、「ちょっと待て、完全体になったらあかんのではないか」という観客のツッコミを無効化するほど強烈なダンスシーンが見られる。ラストダンスってそういう意味だったのか。あと、エディの言葉を借りるなら「夢でそう」なほどの腰使いを目に焼き付けられるだろう。ついでに、エディたちが旅の途中で出会う件の家族との交流も、とってもほっこりさせられる。
先述の通り、この映画はいちおうシリーズの完結編であるにも関わらず色々とモヤモヤとさせられるものの、それが全然苦にならなかった。寧ろ、なんか答えの出ないモヤモヤが続いてほしい……そしていつか……おっとこれ以上は野暮だからやめておくかなと。ヴェノムシリーズを愛してきた人たちには、じらされるような、もどかしい気持ちになるラストではないだろうか。