【小説】『フラッシュバック』#18
ぼくは甘い夢を見ていた。
だれかが遠くからぼくを見つめている。ぼくがそれに気づくと、だれかは視線を逸らす。そしてまた見つめてくる。繰り返す。飽きない様子。
ぼくが通ったところを、だれかも通る。ぼくが触ったものを、だれかも触る。ぼくが居たところに、だれかも居る。気づけば、離れていただれかは少しずつぼくの近くにいる。
ぼくはこちら側の島で笑う。するとだれかもこっちを見て笑っている。ぼくが楽しそうにしていると、だれかも笑いたくなるらしい。
ぼくはだれかの島へ近づく。だれかは緊張した面持ちを隠している。ぼくはだれかへ近づく。だれかは、しゃべるのは様子を見て慎重になり、こっちを見守ることに集中している。しかし、遠くにいるより目を逸らさなくなる。
だれかと目が合うと、うれしさが弾けている。にやにやが止まらなくなっている。ぼくが正面の別の人を見ているあいだ、だれかはじっとぼくの顔を眺めている。視線が熱いくらいだ。
ぼくはだれかの隣に座った。わあと沸いて、だれかはぼくの膝に手を置いた。ぼくはそれを気に留めないが、だれかは待ち望んでいた様子だ。
そのうちぼくの手に何かが触れる。くすぐるように様子を窺う。そしてだれかの手が重なる。ぼくは何も反応しない。やがてだれかは裏返しのぼくの掌を上向きにひっくり返す。我慢できない様子。
だれかはぼくのほうに寄りかかってくる。だれかはぼくの手を、指と指を組んで握る。だれかはぼくの手をつかんで胸元へ運ぶ。だれかはぼくの手をそこに押しあてる。
ぼくはその招待を保留する。ほかの人の目がある。だれかは不満そうにぼくにもたれかかる。次第にだれかはふてくされて、ぼくの肩に顔をうずめる。ぼくは仕方なくだれかをさすってあげる。時間だけが過ぎていく。
パーティーは終わりを迎える。みな散り散りに帰り路につく。ぼくは一人で歩きだす。
すると、だれかは別方向へ帰ったはずなのに、ぼくの方向へと追ってくる。どうしたのとぼくは振り返り、だれかは駆け寄ってくる。
その合流に、だれかは見え透いた理由を言う。声が甘い。甘ったるいほどに感じて目がまわる。だれかはぼくの後ろをついてくる。
だれかはぼくを褒めだす。
優しいよね。
そうでもない。
声かっこいいよね。
そうでもない。
男らしくて、好き。
何が。
気がつくと、まただれかはぼくの手を握ってくる。むりやりに両の手をつないでくる。
ぼくはよりによって今日なのかと思う。明日も朝から望まない仕事が待ち受けている。
灼けるような眼差しを感じる。ぼくは耐えきれずそれを見られない。信じられないとすら思う。
やがて足を止められる。両の手は繋がっている。ぼくは立ち止まり、だれかに振り向かざるを得ない。切迫した無言の訴えに加え、だれかの瞳はうるんでいる。だれかはつま先立ちで背伸びをして、ぼくの見ているその瞳が、だんだん近く、近くなって、閉じる。
そして二人は歩き出し、言い訳の余地を残し、二人きりになれるところに行く。わかりきった最後の茶番をし、だれかは恥ずかしがり、絶望的に甘えながらしおらしく濡れ、ぼくは明かりを消す。だれかの身体はとても熱く、ぼくらはまぐわい、ぼくはだれかの身体のすべてに触れ、だれかはぼくを内側で感じ、揺れに合わせて喘ぐ。やがてふたりで果て、横に並び、お互いどうしを呼んだ。
そんなだれかを、ぼくは覚えていない。