『天使の翼』第11章(51)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
それに対する公女の返答が、伝説を作った。
「マリア様にお従いして、山の洞窟にこもっていました」
公女は、はっきりとよく通る声でそう言った。
その場にいて固唾を呑んでいた者達の間に、押し殺したざわめきが、さざ波のように走った――それは、まるで、その瞬間に全てが納得されたかのようだった。
「『マリア様』だと?」
デラの放つオーラに対して一人だけ免疫でもあるかのごとく、大公が、実際的な疑念を挟んだ。
「洞窟のマリア様です」
デラは、あくまで凛と通る声で答える。
再びざわめきが起き――それは、最初のものより大きかった――互いに頷き合う人々の姿が見られた……
「聖女様!」
誰かが叫んだ。
「奇跡だ!殿下が奇跡を起こされた!」
それは自然に受け入れられ、巻き起こった渦の中で、一人大公のみは、鋭く公女を見詰めた後、どさりと玉座に腰を下ろした。
「よかろう――」
大公の頭脳の中でそれこそいかなる思考が渦巻いたかは、分からない。一つだけ確かなのは、大公は公女の言葉を信じてはいない、という事である――誰かをかばっていると見たのか、真偽はともあれ、この新しく第一公女に備わった『カリスマ性』を良しとしたのか……
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