『天使の翼』第13章(16)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
一触即発の張り詰めた空気を破り、いつ間違いが起きてもおかしくない睨み合いに終止符を打ったのは、最後にエアカーから降りてきたふてぶてしい笑顔の若造だった。おそらくこの隊の指揮官……
彼は、さっと右手を一振りして、兵らの銃を下げさせた。
「これはこれは……」
彼は、まるで自分が襲われるなど考えたこともない肉食獣が、獲物を前にして舌なめずりするかのように、わたしとエリザをゆっくりと交互に見回した。
でも、そんな外見とは裏腹に、わたしには、彼、鷹揚なふりを装っているけど、その内心は必死だわ、と分かった。……何と言っても、今のこの状況は、文字どおり前例のない事態に相違なかった。一体どう対応すれば……
確かに派手なパフォーマンスの目立つ吟遊詩人だが、実際のところ何の実害もなく――わたしの重い使命を知らない限りでだが――市民の間での人気も無視できないほど大きい……そして、何よりもエリザの存在だ。彼女は言うなれば神獣であって、例えば軽率に殺処分などにしようものなら、どんなお咎めをうけるか分かったものではない……
実際、彼は、ポーカーフェイスのままポロリと本音を漏らした。
「あなたの方は、さっさと逮捕して軽くお灸をすえればそれで済む。しかし、こっちはな……」
その後の無限に続くかと思われた沈黙は、その場に残っていた大多数の聴衆の輪を突っ切って、官服姿の一人の中年男性があたふたと登場することによって破られた。
彼は、背中を丸めて、手のひらを膝にやって体を支えながら荒い呼吸をなんとか整えると――
「わ、私は、副市長……副市長のラインハルトです」
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