『天使の翼』第13章(17)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
どうやら、彼は、主にわたしに向かって自己紹介したようだ。
ラインハルト副市長は、改めて指揮官の方に向き直ると、軽くうなずきかけた。
「中尉、ご苦労様です」
中尉の顔にはありありと安堵の色が浮かんでいた。
「これはこれは、副市長閣下直々のお出ましですかな」
「いやいや、少しでもお手伝いできることがあればと……早速ですが、この獣――」
と言って、副市長は、エリザのことを厄介の種そのもののように手のひらをヒラヒラとさせて指し示した。
この時、エリザが小さく咆哮したのは言うまでもない。
「――いや、マウンテンデビルですが、よろしければ、私どもの方で外輪山の頂上まで運搬し、空に放ちたいと思います」
エリザは、おや、と言うふうに首を傾げた。
このいささか太り気味の副市長、手回しが良いというか、頭の方は相当切れるようだ――それは、わがままな権力者、市長の下で働く者にとって必須のスキルなのかもしれない――。彼の言葉に歩調を合わせるかのように、この時、1台の大型のトラックが、野次馬の人垣を破ってバックで公園に侵入してきた。
ちらっとそちらを一瞥した中尉は、内心を隠すかのようにあっさりと、手の一振りでそれを了承した。
「さてと、あなたをどうしたものか。厳密に言うと惑星内空路妨害罪なん――」
「ちょっと待ちなさいよ!」
わたしは、じろりと中尉を一睨みした。世の中には美女(?)に怖い顔で睨まれると、まるでこの世の終わりが来たように感じる男性種族がいる。中尉は、口をあんぐりと開けて黙り込んでしまった。あまり一般市民から逆らわれたことがないので、想定外だったというのもあるかも知れない……
わたしは、エリザのほうに向き直った。……多分これでお別れだ……
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