経営者の責任~面白い会社と退屈な会社~

 この記事【デル再上場と退屈な会社】は、自ら変化し続ける大企業デルとアップルの事例から説き起こして、一気に経営者の責任、第4次産業革命の時代を勝ち抜くための舵取り、という核心に入っていきます。そのキーワードは、ズバリ『面白いか?退屈か?』――

 この記事を読んで、私は、改めて少し前の日経電子版の記事【働くなんて「余暇活動」でいい ボーナスは同じ】(本稿末尾に添付)を思い出しました。この記事を読んで考えた事をもう一度整理してみると――

(1)今の時代の消費者の特徴①『情報発信』・・・消費者は、企業より先に行動して、自ら情報発信し、共感した人のコミュニティーが市場を作る。②『コト消費』・・・消費者は、『モノ』そのものではなく、そのモノによって得られる体験=『コト』の方を重視する。(2)第4次産業革命の時代の産業の特徴 コモディティ化するモノと、IoTとそれを制御するAIを活用したサービスをパッケージにして供給する、『コトづくり』が産業のあり方となる、製造業のサービス化が進行する時代。●プロダクトアウト=UX(ユーザーエクスペリエンス)と直結しない・・・従来の『モノづくり』 『モノづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト●ユーザー参加型=UXと直結・・・『コトづくり』のビジネスモデル 『コトづくり』=メカニクス+エレクトロニクス+ソフト+IoT+AI                 =モノ+サービス(モノとサービスの融合)(3)UXデザインの重要性 今の時代のユーザーは、『モノ』そのものではなく、そのモノによって得られる体験=『コト』の方を重視しますから、どのようなUXをデザインするか、という事がその商品(モノ・サービス)の質、つまり売れ行きに直結すると言えます。(4)『好きなコトで楽しく働く』ことの意義 UXを最大化するような事を思い付くには、働く者自身が、そのモノ・コトが好きで、好きなモノ・コトをトコトン突き詰めることが肝心です。働く人が心から楽しんでなくて、本当にユーザーを感動させる体験を提供出来るはずがない……働く人がユーザーと同じ夢を、ユーザーの期待以上の夢を見ることが、会社というものの本来のあり方。

――今の時代の『会社のあり方』は、(1)『情報発信』と『コト消費』を特徴とする消費者に対応したものでなくてはならず、この『コト消費』に対応するには、(2)第4次産業革命の時代のコアテクノロジーであるIoTやAIなども活用して、(3)UXデザインに力を入れなくてはならない。そして、このUXを最大化するには、(4)何よりも働く者自身が、そのモノ・コトが好きで、楽しんで夢中になって働くことが肝心である、という考え方です。このロジックでは、『売上』『利益』『稼ぐ』ということは二義的なもので、結果に過ぎず、一義的には『UXの最大化』、すなわち『人のために役に立つ』ことこそが会社のあるべき姿であることが示されます。

 第4次産業革命の時代の『会社のあり方』をこのように考えるなら、『面白い会社』である事が決定的に重要である事は明らかです。『面白い会社』であることが、『UXの最大化』、『働く楽しさ』、『会社の成長』という3本柱の土台となり、ユーザー、働き手、会社という3者にそれぞれの価値をもたらすのです。

  『面白い会社』である事があるべき姿であるなら、経営者にとって、自社を『退屈な会社』ではない『面白い会社』にする事は、重大な責務、経営者の責任として最重要なものの一つと言えるでしょう。

ここで言う『面白い』とは、働く者が、ユーザーのために、自分自身も好きな(興味のある)モノ・コトをトコトン突き詰める楽しさ、というニュアンスですから、『面白い会社』=『イノベーションのエコシステムとして機能する会社』と言い換えることが出来ます。つまり、経営者にとって、自分の会社というエコシステムの、『生態系の頂点にイノベーションをしっかりと位置付ける』ことが出来るかどうかが、きわめて重要です。そのための切り口として、3つ挙げるとすれば――

【1】イノベーションの阻害要因を排除する

例えば、会社のエコシステムにおいて、イノベーションより『中間管理職による決裁ルート』の方が上位にあったなら、イノベーションは全うできません。そのような阻害要因は直ちに排除して、イノベーションを『中間管理職による決裁ルート』の上位に置く、つまり、決裁ルートの例外として、イノベーションに関わる案件は経営トップの直轄にする必要があります。

そのようにして、イノベーションを阻害する要因を一つひとつ排除して、会社のエコシステムをイノベーションのエコシステムへと作り変えていかなくてはならないと考えられます。その際大切なことは、自社をイノベーションのエコシステムに作り変えるだけでなく、そのような社内エコシステムを、より大きな外部のイノベーション・エコシステムへと接続する事だと思います。つまり、オープンイノベーションです。

【2】心理資本の蓄積

『UXを最大化』し、『会社の成長』を達成するには、何よりも『働く楽しさ』が会社の中に溢れていることが肝心です。具体的な『働き方』をデザインするに当たって、社会資本・心理資本の考え方、心理資本の要素で自社の働き方を一つひとつチェックすることが有効ではないでしょうか――

●財務資本Financial Capital・・・いわゆる資本。資本主義社会における投資。●人的資本Human Capital・・・財務資本を生み出す人の能力。●社会資本Social Capital・・・人が学習し、その人を支援する場としての、社会的ネットワークにおける人間関係。人的資本を生み出す人間関係。●心理資本Psychological Capital(PsyCap)・・・変転する環境の中で、ポジティブな心理状態を持続可能とする要素。財務資本・人的資本・社会資本など、全てを生み出す源。個人にとっては、自身の生き方、生きがいに向かって前進するため、自分の能力を最大限に発揮するために必要な心理状態。企業にとっては、競争力を最大化するために、どうやってそのような心理状態を引き出すかという課題。▶心理資本の、ポジティブな心理状態を持続可能にする要素とは――●自信・効力感Efficacy●楽観性Optimism●希望Hope・・・成功のイメージと、そのための具体的なプロセスのイメージ。●粘り強さ・再起力Resilience(日経電子版の記事【電子立国に幕、人事が足かせに 東芝メモリ売却完了】参照。本稿末尾に添付)

――会社を成長させる人的資本は、その基盤となる社会資本、さらには心理資本いかんでいかようにもなってしまいます。記事にあるような「日常の仕事に埋没し創意工夫が出てこない。減点主義の風土が抜きがたい。プロとの自負が強い社員ほど仕事のやり方を変えたがらない」エコシステム、硬直した『退屈な会社』は、社会資本・心理資本が全く蓄積されてない、あるいは、そのような資本の存在が全く顧みられていない状態と言えます。経営者にとって、自社のエコシステムが社会資本・心理資本とどのように向き合っているかを点検すること、社員がやる気を出せるような状態になっているのか点検することは、喫緊の課題だと思います。点検の結果、驚く程悲惨な状況が明らかになったとすれば、その状況と会社の業績は負の相関関係にあるかも知れません。

【3】イノベーションの新陳代謝を活性化する

イノベーションが活性化しない要因として、アイデアやテクノロジーが――

①新しいプロダクトへと繋がっていかない状況②埋もれてしまって見える化されていない状況③マッチングの機会が極端に少ない状況

――つまり、イノベーションの新陳代謝が活性化されないまま、宝の持ち腐れになってしまっている状況が考えられます。①アイデアやテクノロジーを見立てて、新しいプロダクトに結びつける洞察力ある人材の育成・確保、②アイデアやテクノロジーのデータ化、③マッチングの機会創出などの施策が重要だと思われます。

 会社という組織は、大企業であればあるほど、イノベーションのエコシステムとはかけ離れたロジックで動いている可能性、『退屈な会社』になってしまっている可能性がないでしょうか。第4次産業革命の時代に『退屈である』事は、会社の成長にブレーキをかけ止めてしまう要因になりかねないと考えられます。『退屈な会社』が『面白い会社』に生まれ変わるには、何よりもまず経営者自身が変わること、そして、記事の言葉を借りるなら「求められているのは言い訳なしの行動」という事になりそうです。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO34010960Z00C18A8TCR000/

https://style.nikkei.com/article/DGXMZO99044530Q6A330C1000000?channel=DF180320167075

https://comemo.io/entries/8718

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31220790R30C18A5X11000/

https://comemo.io/entries/8063

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