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『天使の翼』第12章(8)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
……この状況からして、前席にいた二人、フラージュ少佐とその副官は、死んだか、相当の重傷……いずれにしても、シャルルにこの二人を助け出す余力も時間も、さらに言うなら理由もなかったはずで……だとしたら……無事だったSSIPの隊員が二人の体を持ち去ったか、既にSSIPの救援隊が一度来ている!
わたしの頭は、ようやく回りだした。
(SSIPが、この墜落機を放置する訳がない!)
わたしは、身震いとともに顔を上げ、周囲、空を見渡した。
ここは、言わば何もない吹きっさらしだ。隠れる所はない……
その時、波の音とは違う何かが聞こえたような気がした。
(……)
そして、もう一度その音が――
わたしは、その瞬間波を蹴立て、岸に向かって走っていた。
(なにかとても大きなものが飛んでくる音!エア・トラックよりもっと大きい。宇宙船かも……)
もうあの安全な窪地、シャルルがわたしを隠してくれたあの窪地に戻る時間はない。とっさに波打ち際の大きな岩に向かって走る。もしその様子をはたから見ていたなら、わたしの短距離走の新記録だと断言できたろう……こんな時なのに、遠い昔、幼い少女の頃、兄と行った公園で野犬に出くわして駆け逃げた時の記憶が鮮やかに甦った……