ブランド・イノベーションの教科書
かつてポルシェが多目的スポーツ車SUVのカイエンを世に出した時、どう思ったか?私などは、正直違和感を覚えた口ですが(もっと正直に言うと、「何だこりゃ?これがポルシェ?」)、今やカイエンは成功した車です。
ブランドが、特にラグジュアリービジネスにおけるブランドが革新を遂げるとはどういうことなのか?以来、ブランドのイノベーションという問題がずっと気になっていたのですが、スイスの高級時計ブランド『ブライトリング』を題材にしたこの上・下2本の記事は、その答えをズバリ提示してくれているように思います。熟読すると、ブランド・イノベーションの教科書としての輝きを放っていると言っても過言ではありません。恐らく、最高経営責任者CEOのジョージ・カーン氏のイノベーション観を引き出すという意味で、氏へのインタビューが成功しているからだと思われます。
まず感銘を受けたのは、カーン氏がCEOに就任した際、最初にやった事が、ブライトリングのヘリテージ(遺産)を調べる事だったという点です。そして、ヘリテージの中からイノベーションの芽を見い出した。イノベーションといっても、どこか外から何か別の物を持ってきた(取って付けた)訳ではない。これは、市井の一投資家として、前々から企業の成長のヒントは現場課題の中にある、と思っていた私には、大いに頷けることでした。
政治であれ何であれ、どんな世界でも、何か革新的なことに取り組もうとすると必ず反対の声が上がります。それにどう対処するのか?記事にある通り、カーン氏は、「各方面から厳しい声が届いているし、色々な意見があるのは百も承知だ。ただ、厳しい声は極めて少数派だと考えている。99%以上の人はそうしたことをまったく意識していない。」と述べています。イノベーションを推進しようとする経営者にとって、冷静な分析とそれに基づく自信は、イノベーションを決断する決定的な要素だと思います。
このように、イノベーションの芽を見い出し、ブランド戦略の転換を立案、自らの案を冷静に分析してゴーサインを出した背景には、実は変わらない部分、変えない部分、自身のブランドに対する確固たる自信があることが、記事を読み進めるうちに浮かび上がってきます。カーン氏が、高級時計はコモディティ化しない、ブランドにはアイデンティフィケーションの役割があると言う時、その言葉には説得力がある。もちろん、昔からのコアなユーザーを裏切って全部変えてしまう訳でもない(過去の名作の再編集なども)。
最後に、記事を読み進めると、このブランド戦略の転換の為の具体的な施策が説明されます――
・出遅れている中国(世界最大の高級ブランド市場)への出店攻勢。
・オムニチャネルの推進。
・ミレニアルズへの情報発信。
まさに、この記事は、ブランド・イノベーションの教科書だと言えるでしょう。
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO27490550Y8A220C1000000?channel=DF060420172339
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO27490540Y8A220C1000000?type=my