『天使の翼』第11章(53)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~
「……私の話は、これで終わりよ」
ローラが締めくくった。
彼女は、デラ――わたしとシャルルがキーパーソンと見る女性――について得がたい話を披露してくれた。それは、デラの国民的人気の秘密とか――その点評価は真っ二つに割れるのだが――、公国継承に微妙な影を落とす父大公との関係とか、そういう次元を超えて、一人の興味深い女性の姿を浮き彫りにしていた。
海岸の丘の上は、ここだけ、エアポケットのように周囲の現実から切り離されていたが、そろそろ行動を起こす時が来たようだ――
……兄ケインのことが脳裏を過ぎるが、むろん、わたしは、その事を心から切り離そうとした。
だから、次にシャルルの言ったことを、わたしは、複雑な思いで受け止めた。
「この星に、一人有名な吟遊詩人が居るらしい。彼と近付きになる方法はないものだろうか?」
わたしの兄ケインのことについては何も知らないローラは、シャルルの質問を、わたし達の探索の旅を偽装するものとして、ごく自然に受け取ったようだ。
「それは、ギターのうまいケインのこと?……私の好みじゃないけど、優しげな笑顔の、なかなかいい男よ」
ローラによると、最近めきめきと人気の出てきたケインは、それでも吟遊詩人らしくマスメディアには出演せず、アンコーナの高原地帯の田舎町を拠点に活動しているという……はたして、アンコーナのケインは、わたしの兄ケインなのだろうか……
「そこに行くには――飛行艇が必要かい?」
シャルルのジョークに、わたしとローラは同じ反応を示した。二人して、彼の腕をはたいたのだ。
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