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『天使の翼』第13章(19)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 エリザは、彼女の性格らしくうじうじすることもなく、大型トラックの方へと歩みを進めた。マウンテンデビルは、地上では不器用でドタバタと騒々しい。そんな彼女の背中を見ていると、また涙が溢れてくる。
 この大型獣をどうやってトラックの荷台に載せようかと頭を悩ませていた作業員たちの懸念は、全くの杞憂に終わった。エリザは、何の説明も指示もなしで、自ら設置されたスロープを登って、トラックの荷台へと上がったのだ。
 「風のデイテが、マウンテンデビルと話してる!」
 野次馬の誰かが大声を上げ、それがまた、新たな伝説となった。
 わたしは、余裕たっぷりにSSIPの中尉の方を振り返り、グイっと頭をそらせ、両の拳を腰のくびれにあてがって――
 「さ~て、次は?……中尉殿」
 完全なる上から目線……我ながらカッコイイ、なんて……
 中尉殿は、部下の手前もあって憮然たる顔を装っていたものの、高原の涼風に髪をなびかせるわたしの姿に今にもとろけそうになっていた、かも……
 「逮捕しろ!」
 彼はそれだけ言って、さっさと指揮官機に乗り込んだ。このまま風のデイテ劇場を続けていてはまずい、と思ったに違いない。彼にしてみれば、正しい判断だ。
 わたしは、遠慮がちな隊員たちに両腕を抱えられ、頭を押さえられて、後続機へと乗り込まされた。わたしに目顔で促された隊員のひとりが、慌ててわたしの身の回り品を取りに戻ったあと、野次馬からの猛烈なブーイングを尻目に、SSIPのエアカー3台はあわただしく飛び立った。

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