タイのバレーボール通訳体験記
1月28日は大事な試合なんだ。通訳お願いできる?
タイ•バレーボールリーグの予選終盤
ダイアモンドフーズ VS ナコンラチャシマ
現在1位と2位のチームがぶつかる大事な試合。予選通過1位を狙うナコンラチャシマの監督からの依頼だった。
チームには、井上琴絵選手という元日本代表のリベロがプレーしている。彼女の通訳をしてほしいとのことだった。
わたしは、42歳。通訳を生業とはしていないし、通訳経験もほとんどない。
一旦は、断ったが、ギリギリになってオファーをうけることにした。
監督とは気のおけない友人だし、新しいことに挑戦してみてもいいのかなとおもったからだ。
全然、聞こえへんやん!
監督の指示を的確に日本人選手に伝える。
通訳として当たり前のミッションだ。バレーボール用語はもちろん、チーム内特有の言い回しなどは、事前にアタマに叩き込んでいた。
しかし、試合がはじまると、全部ふっとんだ。
応援団の音楽、会場のMC、それに観客の声援で、監督の声がぜんぜん聞こえないのだ。
予想外の展開だ。
しかも、チームは劣勢。タイムアウト時の監督やコーチは、普段より、早口になっている。
ダメだこりゃ。
ぜんぜん聞き取れない。伝えられない。
申し訳ない気持ちとあせりに埋もれたまま、1セット目があっという間に終わった。
自分の役割とは何かを問う
とにかく、コミュニケーションをとってほしい。
セット間の休憩中に監督にそう言われた。細かな指示を一語一句、正確に伝える必要があるなら、お前には声をかけていない。選手とスタッフの間に入ってほしい、と。
ふと思い出したことがあった。
試合の4日前、監督と井上選手とLINE電話をした。
調子があがらず心配している選手。心配はいらないと楽観的な監督の会話をサポートする。
あ、そっか。
自分がもとめられているのはそこだな。
監督の指示を単に訳すのではなく、監督やコーチ、タイ人選手と井上選手の間に入って、コミュニケーションを促すことが求められてるんだな、と。
会社でも、タイ人と日本人の間に入って、調整することばかりしているので、それだったらできる。
コミュニケーションの潤滑油
やるべきことがシンプルになるとあとはやるだけ
2セット目以降は、監督やコーチ、タイ人選手が井上選手に伝えたいこと、井上選手がみんなに伝えたいことをどう、伝達するかだけに集中してみた。
しかし、30秒のタイムアウトの時間内でそれをするのは無理がある。どうしたらいいものか。
井上選手は、リベロである。ミドルの選手と交代する間にベンチに戻るタイミングがある。その時に会話をすればいい。監督やコーチとも、ベンチで話せばいうこともある。
ささいなことでも、ちょこちょこ話しをしていると、互いの考えていることがよく見えてきた。
2セットを相手チームに取られたところで、20分の休憩。
コーチから声をかけられて、井上選手と3人で話しをした。相手チームのレフトからのスパイクコースと守備位置の確認だった。
井上選手も、コーチの指示に納得していたようだった。
運命の第3セット
さすが、元日本代表の選手である。
相手、エースのスパイクを次から次へと拾う。
コーチの指示どおりすぐに動けてしまうのだ。
さらに、セット間に聞いていた
井上選手の意見もチームにも伝わっていた。
相手のブロッカーに読まれがちだった単調な攻撃も、トスの長さや速さを変えはじめ、ブロックをかわす攻撃も増えた。
3点差までリードをひろげた。このセットはいけるかなとおもった。
しかし、主力選手をケガや体調不良で欠くナコンラチャシマは、惜しくもセットを奪えず敗退した。
個人的にうれしかったのは、井上選手が復調したことだった。さすが、百戦錬磨の選手である。負けはしたが、監督も喜んでいた。
話せると通訳はべつもの
訓練するしかないよ。
あの雑音の中、監督の指示を聴いて、訳すの?試合後、通訳を生業にしている友人に尋ねた。
何回も、何回も経験を積んで、訓練して、慣れるしかないよ。笑いながら、そう答えた。
あんな、爆音かつ短時間で、指示を聞いて、的確に伝えることができるなんて、プロはさすがだなとおもった。同時通訳となるとさらにハードルは高くなる。
束の間だったが、プロと素人の差がなんたるかを思い知らされた時間だった。
タイ語が話せるのと、通訳ができるのは全く違う。違いすぎる。これはちゃんと訓練しないといけない。
タイ語をはじめた頃のように、コツコツと。
これからも機会があれば、通訳の仕事は挑戦してみたいと思う。
タイで活躍する日本人選手
冒頭で紹介した井上琴絵選手に加えて、今季は、3名の日本人選手がタイのリーグで活躍している。
言葉も通じない、文化風習もことなる環境でがんばるみなさんを応援したい。
女子ナコンラチャシマ : 井上琴絵選手
女子ダイアモンドフーズ : 山内美咲選手
男子ダイアモンドフーズ : 柳澤広平選手
2/8〜11に上位4チームの決勝リーグがはじまる。上記の3選手が所属するチームは参戦。
残念ながら、テレビ放映は、タイ国内のみだが、下記のYou Tube チャネル(SMM Sports)でハイライト観戦は可能。是非、応援していただきたい。