#5 兼業生活「どうしたら、自分のままでいられるか」〜辻山良雄さんのお話(3)
気になる、お金の話
室谷 辻山さんはリブロ池袋本店でマネージャーを務め、お店の閉店を見届けた後、42歳で会社を辞められました。リブロ池袋は1日4000人が本を買うお店で、辻山さんは100人以上のオペレーションをしていたそうです。その規模感と、いまのお店になってからでは、どう違いますか。
辻山 例えば池袋で1日4000人くらい来て、1200万円くらい本が売れたとしても、自分がそれを全てさばいたわけではないですよね。自分が見ているのは、その中の点でしかない。そういう意味では、もちろん独立して変わったことはいろいろありますが、1日の中でやっていることはそんなに変わらない気がします。
売り上げの話でいうと、当初の目標は月に250万円と書いていますが、今はウェブショップもあってもう少し多いです。ただ、自分で本を注文し、レジに立ち、配送するといったことをしていると、それくらい売るので体力がギリギリなんですね。時々、2階の展示でよく本が売れたりして400万円くらいの売り上げが立つと、ありがたいんですが、配送作業とかでヘトヘトになります。ですから別に広げるつもりもなくて、これくらいの規模で店をやりながら、食べていければいい。定常でいこうという考えですね。
室谷 売り上げ300万円前後がちょうどいい。
辻山 そうですね。これくらいが限界で、逆に落ちてきたら、もうちょっと頑張らないと、という感じになるかもしれない。
室谷 その売り上げで、利益はどれくらい出ますか。
辻山 人件費などの経費を引いて、会社に残る利益は月20万円くらい。これが営業利益ですね。自分たちの生活費は給料という形で、経費として毎月引き落としています。
室谷 もし差し支えなければ、お給料をどれくらい取っているのか聞いてもいいですか。
辻山 2人(Titleは、妻の綾子さんが運営するカフェを併設している)で、月40万円くらいかな。その本に書いてあるよりもかなり多いですね。
室谷 はい。ご著書には月15万円くらいと書いてあって、勤め人だった頃からずいぶん減るんだろうなあと、勝手に心配しました。
辻山 最初はどれくらい儲かるか、分からなかったですからね。事業計画は、試みに作ったようなものだから。あとは開業して1年目に、人件費などの経費をある程度計上しておかないと、法人税で持っていかれるのだとわかって。私たちの給料を大幅に上げました。そういう税金の事情は、開業するまで意識していなかったところです。特にコロナの間はみんな大変だから、アルバイトの人たちの人件費にどんどん使ったりもしました。
室谷 自営業になると、税金への意識が大きく変わりますよね。辻山さんにとって、Titleは現状が適正規模だという認識でいいですか。
辻山 はい。社員を雇って売り上げを増やすということは、考えていません。ある時期が来たら、自分の代でお店を畳んで終わりでいいんじゃないかと思っています。また、Titleのようなお店は、2店舗目、3店舗目をつくって利益率が上がるわけではない(製造原価が下がるわけではない)から、スケールメリットはありません。だから必然的に、今の形になっています。
室谷 辻山さんが1人でできる範囲、というのが前提なんですね。もう1つ、ご著書で気になったのが……
辻山 あの、もうちょっといいですか。私の感覚は、職人に近い。商人じゃなくて。やかんを作る職人がいたとして、作れるぶんのやかんを作って、出したら終わりですよね。そんな感覚に似ているというか。
室谷 なるほど。Titleというブランドをコピーして広めたら産業になるんでしょうけど、そこには関心がない。
辻山 関心はないし、やったとしてもあまりうまくいかないでしょう。すみません、お話を続けてください。
つづき→「人生は、積み上げでできていく」
※写真はすべて友人である写真家の中村紋子さん@ayaconakamura_photostudioによるものです
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