室谷明津子

執筆のおしごと「暮しの手帖」「日興フロッギー」「LID Media(リバネス)」など。…

室谷明津子

執筆のおしごと「暮しの手帖」「日興フロッギー」「LID Media(リバネス)」など。リトルプレス『大人ごはん』をのんびりつくってます。noteはほぼ毎月、お一人ずつの記事を更新予定(情報は旧ツイッター @atsu_kom に載せてます)。富山出身。ケンカに負けがち。

最近の記事

#41 兼業生活「わたしのちっちゃい関心ごとを、社会にひらく」〜丸山里美さんのお話(4)

「わからなさ」を引きずって、見えてくるもの室谷 貧困の捉え方に関するジェンダーバイアスのお話で、ヨーロッパでは剥奪指標の質問の仕方にフェミニストから異論が出たというのが、とても興味深いです。 調査って、「問い」の設定によってデータが大きく変わりますよね。日本では世帯主の多くが男性であるのに、世帯単位で貧困を捉えるというジェンダーバイアスが長らく放置されてきた。そこに先生が切り込んでおられるのは、フェミニズム研究の理論を学んでこられたから。いろんな場面で、知識をつけながら問い

    • #40 兼業生活「わたしのちっちゃい関心ごとを、社会にひらく」〜丸山里美さんのお話(3)

      日本の調査にひそむ、ジェンダーバイアス室谷 最近は「世帯の中の貧困」をテーマに、調査・研究をなさっているそうです。その内容についても教えていただけますか。 丸山 きっかけは、東京で困窮者支援を行う認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の調査に関わらせていただいたことでした。 (この調査は『貧困問題の新地平 もやいの相談活動の軌跡』という本にまとまっています) この調査では、2004年から2015年3月までにもやいの生活相談に訪れた人たち3267ケースの相談票

      • #39 兼業生活「わたしのちっちゃい関心ごとを、社会にひらく」〜丸山里美さんのお話(2)

        女性ホームレスの語りを、理論で読み解く室谷 前回は『女性ホームレスとして生きる(増補新装版)――貧困と排除の社会学』(世界思想社)』を参照しながら、丸山先生が女性ホームレスの聞き取り調査を行うなかで、男性中心の先行研究との折り合いがつかずに迷ったお話を伺いました。 結果として、女性たちの語りを理解するために、この本では従来のホームレス研究から軸足を移し、ジュディス・バトラー(哲学者)とキャロル・ギリガン(発達心理学者)という2人のフェミニズムの理論が応用されています。ご自身

        • #38 兼業生活「わたしのちっちゃい関心ごとを、社会にひらく」〜丸山里美さんのお話(1)

          社会学者・丸山里美さんのご著書『女性ホームレスとして生きる(増補新装版)――貧困と排除の社会学』(世界思想社)を読んだとき、貧困研究の本でありながら、自分が日々もやもやしている“違和感”につながることが書いてあると思い、とても驚きました。 著者は女性ホームレスの生活史を聞き取るなかで、自分の意志よりも周囲との関係性を優先し、状況に依存しながら行き当たりばったりの選択を繰り返して野宿に至った、女性たちの状況に気がつきます。彼女たちの語りは一貫性に欠け、矛盾も多い。それは、従来

        #41 兼業生活「わたしのちっちゃい関心ごとを、社会にひらく」〜丸山里美さんのお話(4)

        • #40 兼業生活「わたしのちっちゃい関心ごとを、社会にひらく」〜丸山里美さんのお話(3)

        • #39 兼業生活「わたしのちっちゃい関心ごとを、社会にひらく」〜丸山里美さんのお話(2)

        • #38 兼業生活「わたしのちっちゃい関心ごとを、社会にひらく」〜丸山里美さんのお話(1)

          #38 兼業生活「生きるために必要だから、つくる」〜中村紋子さんのお話(4)

          「生きるためにつくることが必要な人」を探す旅室谷 震災後に「いい意味で諦めがついた」というもんちゃんですが、そこから仕事のやり方を変えたのですか。 中村 自分に合わないと思う仕事からは、意図的にフェードアウトしました。とはいえ、すぐにはやめられないので、3年くらいかかったかな。 そこからの仕事は、「生きるためにつくることが必要な人」と一緒にやりたかった。思い浮かんだのがアール・ブリュット(*)で、当時アーツ千代田3331にあった障がいがある人のアートを支援する会社の事務所

          #38 兼業生活「生きるために必要だから、つくる」〜中村紋子さんのお話(4)

          #37 兼業生活「生きるために必要だから、つくる」〜中村紋子さんのお話(3)

          きれいごとの世界は、もういい室谷 20代のころは海外のアートフェアにも参加していたんだよね。海外で作品が売れることは嬉しかった? 中村 最初はすごく嬉しかった。いままで手にしたことがないようなお金がバーンと手に入ったし。でも途中から、「どうやら、これはマネーゲームだぞ」と気がついた。海外でアートが売れるって、究極の先物取引みたいなもの。豪華な会場にばーっと作品が並ぶんだけど、すばらしい作品に対してコレクターの人が「色違いはないですか?」と聞いたりするの。 室谷 「色違い」

          #37 兼業生活「生きるために必要だから、つくる」〜中村紋子さんのお話(3)

          #36 兼業生活「生きるために必要だから、つくる」~中村紋子さんのお話(2)

          「そのままの自分」を押しつぶすもの室谷 あらためて、もんちゃんのこれまでのお話を聞かせてください。小さい頃から絵を描いていて、10代のころに写真を撮り始めたんだよね。 中村 初めて写真を撮ったとき、「早い!」って感動したの。繊細な光を絵で描くのは、すごく難しい。それを写真だとシャッターを押すだけで、こんなに簡単にできるのか!と驚きました。それからは絵を描くときに豚毛から馬毛の筆に持ち替えるように、「写真が合うな」と思うときにカメラを持つようになった。もんちゃんは頭の中にある

          #36 兼業生活「生きるために必要だから、つくる」~中村紋子さんのお話(2)

          #35 兼業生活「生きるために必要だから、つくる」〜中村紋子さんのお話(1)

          今回は、このnoteでいつも写真を提供してくださっている、中村紋子さん(通称もんちゃん)が登場します。写真を撮ること、絵を描くことを生業にしているもんちゃんは、私の友人であり、参与観察(*)の対象でもあります。 というのも、彼女は写真や絵のお仕事で、ちょくちょく現金以外の対価を得ているらしいのです(実はこのnoteの写真も、「肩たたき券」みたいなもんちゃん手作りのチケットで対価を支払っている)。 さらに、ふだんから野菜を育て、洋服やバッグを縫うなど、生活の多くが自給自足。ど

          #35 兼業生活「生きるために必要だから、つくる」〜中村紋子さんのお話(1)

          #34兼業生活「人と関わる仕事は、死ぬまで勉強だ」〜姜 由紀さんのお話(4)

          背景を知っているから、できること室谷 鄭さんがCIDPという難病であることが確定したとき、姜さんが「箔がついてよかったね」と言ったという話に、心底びっくりしたんです。発想を転換させる力というか、深刻な危機でそんな言葉が出るのってどんな人だろうと思いました。 姜 言っておきますが、相手がこの人だから出た言葉ですよ。彼がどういう性格でどんな人生を歩んできたか、どんな言葉をかければ奮い立つかを知っているから。「大変だね」「かわいそう」「私がやるから大丈夫だよ」と言って元気が出る人

          #34兼業生活「人と関わる仕事は、死ぬまで勉強だ」〜姜 由紀さんのお話(4)

          #33兼業生活「人と関わる仕事は、死ぬまで勉強だ」〜姜 由紀さんのお話(3)

          看護、負けてるんじゃない?室谷 「人間そのものを見る」看護の仕事に魅かれた姜さんですが、子育てをする中ですばらしい保育者と出会い、影響を受けたそうですね。 姜 それこそ最初は、保育園を「子どもを預かってもらう場所」だと思っていたんです。看護師を「患者さんを介助する仕事」と思っていたのと似ていますよね。でも実際は、保育士さんの仕事はただ子どもを“預かる”だけでなく、子どもを家族ごと“支える”ことだと知りました。 出産後に勤めていた総合病院には、院内保育所がありました。私たち

          #33兼業生活「人と関わる仕事は、死ぬまで勉強だ」〜姜 由紀さんのお話(3)

          #32兼業生活「人と関わる仕事は、死ぬまで勉強だ」〜姜 由紀さんのお話(2)

          幸せか、不幸かを測る視点は1つじゃない室谷 学生時代にふられたという鄭さんですが、その後、おふたりは再会して結婚することになります。この経緯を聞いてもいいでしょうか。 姜 私は関西、彼は関東で離れて暮らしていたのですが、友人からの噂で「まだ好きらしいよ」と聞くんですよ。最初は「何それ、興味ないし」と聞き流していましたが、だんだん「なんでそんなに好きなんだろう」と気になり始めて。 たまたまこの人が関西にいる共通の友達のところに遊びにくると聞いて、「来るの?」と電話したらびっ

          #32兼業生活「人と関わる仕事は、死ぬまで勉強だ」〜姜 由紀さんのお話(2)

          #31兼業生活「人と関わる仕事は、死ぬまで勉強だ」〜姜 由紀さんのお話(1)

          今回は、看護師の姜 由紀(カン・ユギ)さんにお話を伺いました。きっかけは、私がつくっているリトルプレス『大人ごはん4号』で、姜さんのパートナーである鄭 堅桓(チョン・ヒョナン)さんを取材したこと。鄭さんは在日朝鮮人3世であり、39歳でCIDPという難病を発症します。筋肉が痩せ、しびれや痛みが発生し、症状がひどいときは体が押しつぶされるような重さも感じる。当時の取材では、そんな鄭さんが作る日々の料理を通して、思いどおりにいかない身体とどう向き合っているのかを探りました。 鄭さ

          #31兼業生活「人と関わる仕事は、死ぬまで勉強だ」〜姜 由紀さんのお話(1)

          #30 兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(4)

          異端児だから、経験できたこと室谷 坂本さんは新卒で務めた証券会社で34年間働いたわけですが、どうして金融業界に入ったのですか。何か、きっかけがあったのでしょうか。 坂本 単なる偶然でしたね。就職活動の時期に、サークルの友達から証券会社のOB訪問に誘われて行ってみたら、話が結構面白くて。一緒に行った友達からも「合ってるんじゃないの?」といわれていくつか証券会社の試験を受け、2社から内定をもらいました。そのうち、飲みに連れて行ってくれるなど、面倒見のいいOBがいる会社を選びまし

          #30 兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(4)

          #29 兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(3)

          キャンプ生活と、シェアリング・エコノミー室谷 キャンプに行くと、同行者の人間性がよくわかりそうですね。ふつうの旅行ですら、相手の新しい一面を発見したりしますから。 坂本 まさにそうで、家族同士でキャンプに行くと、隠すものがありません。隣のテントの会話が全部聞こえますから、プライバシーなんて関係なし。お互いに配偶者や子どもにどんなふうに話しているか、わかっちゃうわけです。朝はすっぴんだし。 あと、自然の中ではちょっとしたことがケガや死につながるので、他人の子どもでも危ないこ

          #29 兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(3)

          #28 兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(2)

          不満や怒りを消した、「キャンプの力」室谷 前回のお話で、証券会社の役員として働いていた時代に「キャンプで救われた」とおっしゃっていました。ここを詳しく伺えますか。 坂本 当時は毎朝6時45分に出社し、夕食は週5日のうち3日が接待。日中も予定がびっしり入っていて、ゆっくり昼食をとれるのは月1回のランチミーティングのときだけでした。さらに土日も、どちらかは接待ゴルフが入る。自分なりに体に気をつけて、週2日は宴会がない日をつくると決めていましたが、振り返るとすごい生活をしていまし

          #28 兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(2)

          #27  兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(1)

          初めて坂本宣さんにお会いしたのは、アウトドア用品のメーカー、スノーピーク・山井太社長の取材の席でした。坂本さんは当時、記事のクライアントである証券会社の経営企画部長として、取材をセッティングしてくださいました。私はフリーランスになって間もないころで、大きな仕事に緊張しながら、新潟県・燕三条のスノーピーク本社に出向いたのを覚えています。 スノーピークは、社長をはじめ働く人みんながアウトドア好きで、ハイエンドな自社製品のファンでもある。私はその姿を「ピュアでロマンチックな会社」

          #27  兼業生活「人生とキャリアの使い方」〜坂本 宣さんのお話(1)