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家族のために働く。シンプルなことなのに。映画『家族を想うとき』

ケン・ローチ監督作品は観ておくべきだろうというような上映スケジュールに気が引けていた。寒い時期に社会問題を扱う作品を観るのがしんどいな…という気持ちもあって気乗りしなかった。そんな折、映画をたくさん観るEさんが“愛を感じた”というツイートをしていたので、やっと重い腰をあげることにした。腰は相当重くて、映画館の前でももう一度やめようかなぁ…とためらうほどだった。

マイホーム購入のために宅配ドライバーとなるリッキー。フランチャイズの個人事業主ドライバーとして一日中働きづめになる。
リッキーの妻アビーは介護福祉士。移動時間は賃金が発生しないし、夫の宅配バンを買うためにマイカーを売ってしまい、ますます家にいられる時間が少なくなる。彼らの子どもたちも寂しさが募る。

予告編に凝縮された辛さや不条理さは、本編で描かれる家族愛や、厳しい勤務の中にも主人公たちが忘れない誇りや隣人愛と表と裏の関係だった。どうしてそこまでして働くのか、それは家族のためだから。シンプルなことなのに、自らを締めつけ、その不安が家族に伝わってしまう。
どうしてこうなっちゃたんだろうね。
ぐったり疲れた顔でそんな言葉を交わす夫婦はそれでも仕事を続ける。
ドラマで聞くような「誰のために働いてると思ってるんだよ」、そんなよくあるセリフは飛ばないが、そう言ってしまってもおかしくないような状況にある。

フランチャイズの恐ろしさはときどき読むけれど、外から見ているだけではわからない泥沼なんだろう。引き返せそう、辞めたらいいのにと思うけれど渦中にいたらきっとそうできない。

ラストシーンなんてとんでもなくて、ハタから見れば絶対おかしいに決まってるし、わたしもこれちょっと笑ってしまいそうだなと変な表情でスクリーンを眺めていた。

パチンコ屋と夜のお店をかけもちして出産して育てられなくなって子どもを死なせてしまった女性の事件を思い出す。がむしゃらに頑張ったんだろうけどどこかでおかしくなってしまっている。それを伝えられるだけの関係にある人が周りにいないことが悲しい。

真面目に働く人をうまく搾取する社会。愛をもってバカ正直にど真ん中に突っ込んでいく人たち。
家族四人で宅配バンに乗った夜。娘と父が走って宅配した日。真摯に高齢者に向き合う介護士のアビー。思春期で心が暴れてしまうけれど優しい息子。そんな場面がちりばめられていたから辛くなりすぎずに、でもやっぱり辛いなぁと観た。

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