「自分には価値提供できるものがないと思い込む病」(1000文字追記しました)
私が企業で働いていた32年間に何度この言葉を聞いただろうか、一度や二度どころではない、私の部下になった方からは日本人だけじゃなく本社で働いていた外人さんからも聞かされたことがある。どうやら万国共通の悩みらしい。日本語でも英語でも言うことは同じだ。
私には価値がない
私の価値が何か判らない
私は何の役にたっているのか
最初のうちは「問題を相談された」と思い込んで、問題解決の手法を駆使して、ポストイットで原因追及をしたり、真正面から技術的な問題解決と同じアプローチで取り組んだりしたが、それは大きな間違いだったことが多かった。私が問題解決こそが正義と思い込んでいた頃は、話を聞くよりも、
・なぜ、そう思うのか?
・いつから、そう思っているのか?
・だから、どうしたいのか?
と取り調べでもするように問いただしたものだ。彼らは別に私に問題を解決して欲しくて相談したわけではなく、単に話を聞いて欲しかっただけなのだ。それは以前に書いたnoteでも娘とのやりとりで気がついたことだ、ずいぶんと後になってからのことではあるが。
でも、問題解決をしたがる私の本能はモグラ叩きだと判っていながらついつい寄り添うよりも、「なぜ自分には価値がない」などと思い込んでしまうのか考えずにはいられない。これは、私の備忘録のようなものなので、何か面白い事件や、あっと驚くラストが待っているわけではないので、期待して読み進めても、あまりいいことはないだろうから、読まない方がいいと思う。あなたの勝手でこの先も読み進めて、あとで「なんだつまんなかった」とか言わないで欲しい。タノムよ。
あなたの価値は誰が決めるのか?
「自分には価値提供できるものがない」とか「私の価値が何か判らない」とは、誰かにそうハッキリと言われたからなのだろうか? もしもそうだとしたら、独りで悩んでいないで、その人にハッキリと聞いてみればいい、何を根拠に、何を観て、どうしてそう思ったのか、根拠を教えてくれと。
ただ、よく考えて欲しい。その人があなたの価値を評価するのに適した人間なのかどうかだ。給料を決めるとか、成績を決めるとか、そういう意味で「評価する」とか言っているわけじゃない。その人があなたのお客さまであり、あなたの価値にお金を払う立場(クドいけど定額の給料ではなく、価値提供への対価を払うという意味)であれば、話を真摯に聞くべきだろうが、そうではない外野の戯言だったら、そんな無関係な批評家気取りのバカの話なんて聞く耳を持つ必要はないから、無視すればいい。
しかし、その人があなたのお客さまであり、あなたの価値にお金を払う立場で、定額の給料ではなく、価値提供への対価を払うのだとしたら、あなたのお客さまなので、真摯にありがたくお話しを聞く耳を持ったほうがいい。そう、あなたの価値に対する代金を支払ってくださるお客さまこそ、あなたの提供する価値を評価するのは、当たり前のことなのだ。それ以外からのあなた自身への評価は不当、と言うよりも無意味なのだ。
それとも、誰かに言われたわけじゃなく、自分自身で「自分の価値はなんだろうか?」と自問自答していたところ、「とても自分には提供できる価値がない」と自らがそう判断して、途方に暮れているだけなのだろうか?それはとんでもない勘違いだ。
自画自賛
その勘違いがどれだけヒドイものか、逆の事例で考えてみる。ある人が「自分には世界で唯一のとんでもなく高い価値があるのだ」と声高らかに宣言したとしよう。それは誰かに言われたわけでもなく、対価を払うお客さまが評価したわけでもなく、あるいはそこら辺に転がっているどうでもいい批評家気取りのバカに言われたわけでもなく、自問自答して自らが「自分の価値が高い」と判断した人がいるとしよう。さて、どう思う?素晴らしいと絶賛するのか?「あぁ、自分に自信を持てているヒトって素敵」とか感心するのだろうか?
それはまるで、出来の悪い製造業の中のヒトが、自社の技術やアイデアを自画自賛して、「うちの製品は素晴らしく価値がある」と宣言するのと似ている。その製品を買う人のニーズやペインポイントなんかお構いなしだ。自分たちが素晴らしいものを作れば、いいものを作り続ければ、必ず判ってもらえる、買ってもらえると信じて、お客さまの声にはいっさい耳を傾けず、自分たちから客先へ出向いて評価やフィードバックなんかを聞こうとしない人たちのことを聞いているかのような錯覚を覚える。一昔前どころか、二昔前のマーケティングが存在しない企業の典型は、そんなのばかりだった。製造業だけに限らず、そういう販売体制の「いいものを作れば必ず売れる」と信じている自分勝手な思い込みの輩は今でもたくさんいるだろう。だから売れないのだ、オタクの製品は。
巷では、みずから
「安いですよ〜」(自分で安いって言うな、安い・高いはお客さまが決める)
「いい物件があるんですよ、最高ですよ」(って売り手がいいとか、最高とか言うな!)
「早い、安い、旨い」(それを売るおまえが言うな、お客さまが言う言葉だ)
と自画自賛する売り手ばかり。
自己卑下
自画自賛もダメダメだが、自己卑下もいただけない、どちらもまったく同じ事なのだ。
それとまったく同じで「とても自分には提供できる価値がない」と独りで思い込むのは、自分の価値を必要とするヒトからフィードバックをもらってもいないのに価値がないと勝手に思い込んでいるだけで、笑止千万、できの悪いマーケターの、いやマーケティングですらない何かの大きな勘違いなのだ。
自分をマーケティングする
でも何かのきっかけで自分の価値はなんだろう、セルフブランディングしなくちゃ、会社の評価だけに頼って給料もらって生きていくのではなく、自分の市場価値を知り、自分の価値を高め、自分だけで生きていかなくてはいけない、とかいったん思い込んでしまうと、その流れで気分が落ち込んでしまい、そうなると、ぐるぐる回る堂々巡りで、あぁ自分には価値がない→自分はどうしようもない→この先どうやって生きていくのだ→社畜を極めるか→でも社畜としても価値がないじゃないか→こんな会社にいちゃダメだ→じゃ外へ出て行くしかない→でも外で自分は通用するのだろうか→自分をセルフブランディングしなくちゃ→自分にどんな価値があるのだろうか→あぁ自分には提供できる価値がないんだった→振り出しに戻る〜と、なかなか抜け出せなくなってしまうからややこしい。まぁ、人生で、そういう気分には誰でも陥ってしまうのは仕方がないことだ。
でも、ここにマーケティングの発想を持ち込むのだ。それも「既に出来上がってしまった製品」を「何処の誰にどうやって売ろう」というような二昔前のマーケティングではない。
先に売るものを作ってしまってから売りに行くのは、これまでのマーケティングと営業のやり方。まぁ製造業だから仕方がないが、SNSで皆が繋がりやすくなってきた今の時代のマーケティングとは、先に売るモノは準備しないのだ。
先に準備するのは売るモノではなく、お客さまだ。お客さまがわかりにくければ、自分を支えてくれる仲間、自分を支援・支持してくれる知人、自分を心から応援してくれるファン、そちらが先なのだ。
まずは自分がアクセスできる市場(この市場設定も一度や二度で簡単に見つかる訳ではない、何度も試行錯誤する必要があるはずだ)におけるお客さまの声に耳を傾け、いつ、なぜ、どんなことに苦労しているのか、それはなぜか、何を成し遂げようとして困っているのか、目標達成の障害は何か?お客さまは何処へ行こうとしているのか? お客さまのペインポイントは何か、お客さまが気がついていない問題は何か、観て、聴いて、調べて、お客さまのバリュープロポジションを突き詰めて、お客さまのインサイトを見極めるのだ。
でもそこでいきなり解決策なんか提示しなくていい。まずは、相手の気持ちに寄り添って、繋がっていくことだ。売り込むのではない、話を聞いて、寄り添って、理解を示して、受け入れて、コメントを残して、繋がっていく。それだけだ。
そう、SNSは売り込みの場ではなく、宣伝の場ではなく、コミュニケーションの場なのだから、この文章の冒頭でも触れたように、正解を導いて、答えを教えてあげるのではなく、まずは共感するくらいにまでわかり合うことだ。
そのためにも自分からメッセージも発信していくことだ。noteやFacebookなどのSNSで自分らしい、自分の意見を、自分の心の声を上げていくことだ。
ファンが増えていけば、あとはじっくり時間をかけて、ファンの話を聞き、ペインポイントをたぐり寄せて行けば、インサイトが見えてくる。
そのインサイトから、自分が提供できる価値でお客さまのペインポイントを満たして(マッチングさせて)解決すればいいだけだ。(簡単なことではないけど)
言葉に書くと数行だが、誰にでもできることではないし、やることが山ほどある。数日から数週間でできることでもない。要は自分の価値は自分で決めるのではなく、価値への対価を払うお客さまが評価するものだ、と理解ができれば(腹落ちすれば)、「とても自分には提供できる価値がない」などとは思わなくなるはずだ。
もちろん、すぐに成果が出せるとは限らないし(出せない方が99%だと思っておけばまずはメゲナイ)、最初から上手くいくわけがないのは当たり前だ。世の中の大企業のマーケティングでさえ、まともに機能していないのだから、そうそう簡単ではないと思って欲しい(大企業のマーケティングが上手くいかないのは、マーケティングが難しいからではなく、マーケティングを知らなくてマーケティングをちゃんとやっていないからだけなのだが)。
これは理窟でも何でもなく単に私自身の体験を語っているに過ぎない。私だって「とても自分には提供できる価値がない」と人並みに思ったことくらいあるのだ。
さて、あれだけ警告したのに無視して最後まで読んでしまったあなたは、
#どんどんドンドコシェアして
#スキして
欲しい。
おしまい
他にも日経で連載記事を書いています。
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