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読書妄想文 清少納言『枕草子』 七月ばかり……

暑い夜が続く。このように暑いと読み返したくなる枕草子の章段が、ある。
七月ばかり、から始まるその章段は女の一人寝の姿を描き出す。妙に映像的な印象を受けるのは、空の月、板敷きの間の端近く、女の寝姿、となめらかに移動する視点を感じるからだろうか。

一人寝とは書いたが、恋人を待ちぼうけしての不貞寝ではない。夏の夜の暑さで、逢瀬の後の汗がまだ残っているような、一人寝である。じとじとと思い悩む様子もなく、腰紐が解けたままの姿で眠りについている。

そこに、一人の男が現れる。この男は女の恋人ではない。顔見知り、普段からそこそこ交流のある間柄であるようだ。この男は男で、別の女との逢瀬の帰りらしい。

女が気配を感じて目を開けると、男はうすく微笑みながら長押(柱と柱をつなぐ構造材、らしい。下長押で検索すると想像しやすい)にもたれかかっている。にくらしいほどの余裕さだ。

お互いに別に恋人がいる男女の、さっぱりしているようで、そのくせ「色」を失わないやりとりが描かれる。女の枕元に転がっていた開きっぱなしの「朴に紫の紙貼りたる扇」を、男が手に取り、よそよそしいことですね、なんて恨み言を言ってみたりもする。

この章段は短いながらも、様々な色(男女の間柄の、ではない)がちらちらと見えて美しい。女が身につけている香染の単(ひとえ)、もしくは黄生絹(きすずし)の単、紅の単袴。男の着る二藍の指貫に「あるかなきかの色したる」香染の狩衣、紅が透ける白い生絹。他にも几帳の側に散らばる懐紙など。

「露」の言葉も散見されるが、じめじめとした印象はなく、それぞれ別に恋人がいる男女の仲にある、わずかな潤みを表しているようで、とてもいい。一般的な歌の世界では露イコール涙のようなところもあり、男または女の恨み辛みの涙……という匂わせがあるものだが、この章段に至っては、お互いの恋の余波のあらわれであり、冷たく清らかな雫のイメージが強い。

本当に相手とどうにかなりたい、なってしまう、とは男女どちらも思っていないのだろう。昨夜の熱から覚めきっていないまま相対する男女の、情まではいかない、欲というには執着のないやりとりが、ちょうどいい。

角川ソフィア文庫『新訂 枕草子 上』より(三四段)。角川ソフィア文庫なら、前のバージョンでも該当する段が収録されている。ただし章段の番号が違う(三三段)。

私は古典を専門としていないのでざっくり解釈で申し訳ないが、枕草子には「三巻本」と「能因本」など複数の伝本があり、その種類により、収録内容や段数などに違いがあるとのこと。
〇〇段で検索すると、探してる段がネット検索で出てこないことがある人、本文の一部で検索してみるのも手かもしれません。

そういえば、別の章段で「指貫は」「狩衣は」「単は」「下襲は」「扇の骨は」と続いているが、男の装束はまさにこれ、という感じ。清少納言の理想を詰め込んだのか、洗練の極みを体現する殿上人を思い返しながら書いたのか、そうなると「女」は……と、考えはじめると、なかなか楽しい。

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