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読書妄想文 石垣りん『石垣りん詩集』

石垣りんの詩は、国語便覧で初めて読んだのだった。『くらし』という詩だった。

食わずには生きてゆけない。

から始まる、その詩。
石垣りんの言葉は、ひどくぶしつけに感じられた。嫌な感覚ではなかったものの、黒くごろっとしたかたまりが「私のなかにもある」ことを、突き付けられたように感じた。ロマンチックできれいなものだけ見ていたい子供だった私は「なんだか怖いな」と思うばかりで、それから彼女の詩集を手に取るなどなく、学生時代を終えてしまった。

『くらし』を読むと「あのときのわたし」の言動や行動が、どんどん記憶の底から掘り起こされていくようだった。記憶の底にある、というのは正しくないかもしれない。自分の傲慢さに直接向き合いたくなくて、情けなさのあまり「つらい思い出よ、さようなら!」と勝手に蓋をして無かったことにしたモノたちだ。つらいのは自分ばかりのような顔をして。

わたしが幼い子供であれば、涙をぬぐいあやしてくれる優しい人もいただろう。その優しさに甘えて欲望のままの振る舞いをやめず(後先考えずに)、ついにはたったひとり、生きていかねばならないと気づく、その瞬間を見たような気がした。

流した涙は、自分でぬぐうのだ。きっとみんなそうして生きている。


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