![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/74636515/rectangle_large_type_2_0b5522b6c908865a5b8c11f72404e3a9.png?width=1200)
5つの安定性について考える
心理学,特に調査的な手法を使って研究を行う心理学では,いくつかの種類の安定性の捉え方があります。ここでの安定性というのは,英語ではstabilityと書くもので,逆の意味は不安定性つまりinstabilityです。
どんな時に使う?
たとえばどんな時に安定性ということばを使うかというと,時間を超えて得点が安定しているかどうかを考えるときです。同じ集団をずっと追跡調査していき,ある得点の安定性(不安定性)を検討する,というときに使います。
ひとつの文脈としては,ある心理特性の発達を考える場合ですね。好奇心や外向性や抑うつや孤独感など,心理学的な特性が時間を超えてどれくらい安定しているか,年齢とともにどのような変化していくかといった問題を考えるときに,この安定性(不安定性)を考えることがポイントとなります。
5つの安定性
とはいえ,ある得点の安定性を考えるときには,観点が少なくとも5つくらいはあるのです。今回問題にする安定性が,それらのうちのどれになるのかを明確にしないと,議論がよくわからないものになってしまいます。
その5つは,次のようなものです
◎平均値の安定性
◎順位の安定性
◎構造の安定性
◎個人の安定性
◎イプサティブな安定性
ひとつずつ,見ていきましょう。
平均値の安定性
平均値の安定性は,集団の平均値が時間を超えて同じなのか,それとも変化していくのかを考えることです。おそらく,年齢に伴う性格の変化といった問題を扱う場合に,いちばんイメージされることではないでしょうか。
横軸に年齢,縦軸に平均値をとって,折れ線グラフを描くイメージです。そして,線が上下に揺れずにフラットになると,安定していると表現されます。
順位の安定性
順位の安定性は,時間を経たときに高い人は高いまま,低い人は低いままでコロコロと入れ替わらないことで安定していると考えるものです。最初の順位と,時間を経たときの次の時点での順位がどれくらい入れ替わるかで,表現されます。
これは,第1時点でのある集団の何かの得点と,第2時点での同じ集団(同じ個々人)の得点との間の相関係数で表現されます。順位の入れ替わりが少なければ,相関係数は大きな値になっていきます。完全に入れ替わりがなければ,相関係数は1.0となり,完全にランダムに入れ替わるようであれば0.0に近づいていきます。順位が上にいた人が下の方に,下にいた人が上の方に入れ替わるようであれば,相関係数はマイナスの値になっていきます。
構造の安定性
構造の安定性は,ある心理特性と別の心理特性との間の相関係数が,時間を経たときにどれくらい変化するかで表現されます。質問項目どうしの関連でも構いません。
もしも,時間を経たときに,質問項目どうしの相関関係が変わっていってしまうのであれば,最初の時点での因子分析結果と,次の時点での因子分析結果が大きく変わってしまうことになります。
ですから,複数時点で測定した心理的な特性の得点を比較する際に,因子分析の結果が同じになるかどうかを確かめてから(構造が安定していることを確かめてから),検討するということがよくおこなわれます。
個人の安定性
集団の中で平均値が安定していたり,順位が安定していたとしても,個々人に注目すると,大きく変化する人とあまり変化しない人と,両方が存在します。個人に注目したときに,ある年齢以降では性格の得点がほとんど変化していないとか,ある時間間隔で得点が大きく変動すると言うことが生じます。
このように,個人に注目したときの得点の変化の大きさを,個人の安定性と呼びます。
イプサティブな安定性
イプサティブ(ipsative)という言葉はあまり馴染みがないかもしれません。また,日本語でもどう表現したらいいのかがよく分からないので,カタカナでイプサティブと表現されることが多い印象があります。
心理学,とくに性格の測定の中でイプサティブという言葉は,2つの文章で示されるような選択肢のうち,個人がどちらを選択するか,という回答のことを指します。ここから,個人の得点プロフィールを想像するとよいと思います。ある人は,ビッグ・ファイブ・パーソナリティのなかで外向性がほかの4つよりも高い傾向があるとしましょう。そして,時間を経て全体的な得点が上下したとしても,やはり外向性が高いままになっているような場合に,イプサティブな安定性が見られるということになるのです。
どの安定性を指すのか
さて,複数の安定性について話をしてきました。特に心理学である傾向が「安定する」というときに,どれを指しているのかを明らかにすることは重要です。
また普段の生活の中でも,安定性について話をする場面はあります。「性格が安定している」「何歳で性格は完成する」「あの人はあまり変わっていない」などです。このように,「安定する」「完成する」「変わる」といったことばを使うときには,それが何を表しているのかについて考えてみると,そこからさらに少し考えが深まるのではないでしょうか。
ここから先は
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/50023260/profile_bbf6fde4400ae51a2655d8c5ec22287a.png?fit=bounds&format=jpeg&quality=85&width=330)
日々是好日・心理学ノート
【最初の月は無料です】毎日更新予定の有料記事を全て読むことができます。このマガジン購入者を対象に順次,過去の有料記事を読むことができるよう…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?