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大学生は就活の履歴書に何を書くのですか?

何年前のことだったでしょうか。春先にカナダの某大学に通う学生からメールが送られてきました。

大学教員をしていると,海外からメールが送られてくるのは珍しいことではありません。もちろんSPAMメールのようなものもあるのですが「大学院に進学したい」というものや「そちらの大学に滞在して研究活動をしたい」というものなど様々です。

その時のメールは,「夏休みの間に先生のラボに参加して研究活動の補助をしたい」という内容のものでした。カナダの大学の夏休み期間(5月から夏休みですからね)に自分自身のスキルアップのため,私の研究室に来て研究活動をしたいというのです。もっとも,「ラボ」呼べるような部屋があるわけではないのですけれども......。

珍しい依頼でしたし,その時は受け入れてみてもいいかなと思ったのでした。ちなみに期間が始まる前には「受け入れます」というメールを先方の大学の担当者に送りましたし,期間が終わった時には「参加した証明書を書いてください」と言われて書いた記憶があります。

履歴書

そういう「お願いします」という内容のメールによく添付されているのが,自分自身の経歴を書いた履歴書(Curriculum Vitae,CVと言います)です。ネットを検索すれば,英語CVの記入例やフォーマットを見ることができます。

日本の履歴書のように罫線が入っているわけではありませんし,内容も決まっているわけではありません。日本の履歴書もこういうのでいいのに,と思うことがあります。線が消えるとか移動するとか,レイアウトを気にしなくていいので楽ですからね。

夏休みの過ごし方

彼女は私のところに来た年以外にも,毎年日本に帰国するたび,どこかにお願いして滞在する場所を探していたそうです。自己流のサマースクールのようなものですね。自分の関心に従って,どこかの研究機関や大学の研究室にメールを出し,受け入れてくれるところを探していたということでした。もちろん返事が返ってこないことも多いでしょうし,いくつもメールを送ることになります。

でも,それは何のために,でしょうか?

それは自分のスキルアップのためであり,自分の履歴書に項目を追加するためなのではないかと思います。

経歴を追加

私たちのような大学教員や大学院生の場合には,就職の応募をする際に履歴書と研究業績書(や教育業績書)を作成します。

研究者の場合は,何かを書いたり発表したりするたびに項目が増えていきます。とてもわかりやすいですよね。どこかで授業を担当しても,誰かに頼まれて書籍のコラムを書いても履歴書に書く項目が増えます。それをどのように評価するかは,その履歴書を読む人しだいです。

まるで,ゲームの経験値集めのようです。

この感覚は,夏休みに私の研究室にやってきたカナダの学生の感覚に近いのではないでしょうか。実際,その後何年か経ってから,彼女が行った仕事にさらにあれこれと追加して私が論文を書き,彼女の名前も著者リストに入った論文が公刊されました。

ですから,彼女のCVには論文の執筆者(筆頭著者ではありませんが)という項目が追加されたわけです。

日本の就活の履歴書

たぶん,大学生の皆さんが就活を始めて困ることのひとつに「履歴書に書くことがない」ということがあるのではないでしょうか。学校の経歴は書けますよね。バイトの経歴も書くことはできそうです。

でも,「これが自分自身が取り組んだ実績だ」と言えるものには,どういうものがあるでしょうか。

昔から何かの習い事をしていて賞をもらったとか......そしてよくあるのが「資格」ですよね。

何の資格を取る?

でも,やっぱり困ってしまいませんか?

就活のために何の資格を取ればいいのだろう?」って思ってしまいそうです。

よっぽど英語試験で良い成績を持っているとか,何かの仕事に直結するような資格であれば話は別ですが,たぶんあまり「これを持っていれば就活に有利になる」という決定的な資格があるわけではないように思うのですが,どうでしょうか。

たとえば「この資格ならこの本を読めば取れるよ」というようなこともあるように思います。対策本を1冊読んで取ることができる「資格」に,どんな意味があるのでしょうか。「本を読みました」という証明なのでしょうか。それは,履歴書に1行追加するためだけの行為ではないでしょうか。

インターンシップ

たとえばインターンシップは,本来は自分自身のスキルアップのため,そして「自分はこういう業務に参加したことがある」ということを履歴書に書くことができる活動ではないでしょうか。海外のインターンシップは数週間とか数ヶ月というものが多く,何か特別な業務に就いてスキルを磨くものだと聞いたこともあります。

ところが,最近日本でよくあるのが数日や1日(1-Day)インターンシップというものです。こうなるとやはり,自分の積み上げた実績として履歴書に書くというよりは,「就業体験」なのです。「働いてみましょう」というスタンスです。まるで,国全体を挙げた大学生版キッザニアのようなものですね。

求められていない

なぜそうなるのか,理由は簡単だと思うのです。

日本の大部分の企業での就活が,業績の積み上げを求めていないからです。

大学教員や研究者の就活では,業績の積み上げが不可欠です。年齢や経歴に応じた実績の積み上げがないと,候補にも残りません。ですから,みな必死に何とかして実績を積み上げようとするのです。

もちろんそれだけが全てではなく,他にも様々な要素はあるのですが,全体的に見ればこれはある意味で「わかりやすいシステム」です。

一方で卒業と同時に一括で採用する日本独自の就活システムは,実績ではなく「この人がどんな人か」で採用が決まります。

仲間探し

その背景にある要因の一つは,企業が求めているのが「うちの会社に入って何でもこなしてくれる,何でも屋の人材」であって,「ある分野のスペシャリスト」ではないからです。

就職する側も「この仕事をする」というよりは「この会社のメンバーになる」というイメージで就職していきます。

メンバー探しなのですから,特定の実績を積んだ学生よりも「色がついていない」まっさらな学生が好まれます。むしろ色々な経歴を積んだ学生は「クセが強い」と敬遠されたり......実際はわかりませんが。

能力主義では

「日本は能力主義ではない」なんて言われることがありますが,この就活システムはとても能力主義的だと思うのです。

なぜなら,まだ実績を積んでいない,何に向いているかもわからない学生を「良さそうだから」とポテンシャルだけで採用するのです。「まだ実績は見えていないけれどきっと良い人材のはず」という採用の仕方をするのです。とっても,潜在能力重視な採用の仕方ではないでしょうか。

服装や適性検査

ですから,みな同じような服装で就活を行うようになり,明確な理由がよくわからないビジネスマナーが流行することになります。

また,就活をしている学生の「潜在能力」を知るために,就職適性検査が盛んに行われます。

どれも,学生の実績や経歴ではなく,実績として明確に示されるわけではない「潜在能力」を重視するからこそ起きることではないでしょうか。

大学教員を採用する時に心理検査をするなんて聞いたことがありません。だって,履歴書や研究業績書を見て,実際に書いたものをチェックして,何なら模擬授業をしてもらったりすれば,十分に相手がどんな能力や技術や実績をもつ人なのかがわかるからです。

そして大学教員の面接では「みな黒いスーツを着る」ということはたぶんないですよね...(自分自身,黒いスーツで採用の面接を受けた記憶がありません)。

相手の実績がわからないから,どんな実績を積めばいいのかがわからないから,また社会もそんなものを求めてはいないから,皆が黒いスーツに身を包み,何の役に立つのかがよくわからないのに資格を取り,働く体験をするだけのインターンシップに参加し(実際には採用活動を兼ねている場合も多いようですが),履歴書に何を書いたらいいのかよくわからなくなってしまうのではないか,と思ったのでした。

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というわけで大学3年生の皆さん,これからますます就活が忙しくなるかと思いますが,悔いのないように頑張ってください。

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