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16 PersonalitiesはMBTIではない!

いろいろな人から「16 Personalitiesは信用できるのですか?」「16 Personalitiesはどうなのですか?」と尋ねられるので,何度か質問項目に回答しつつ,質問項目の内容をチェックしてみました。仕事上,こういう質問が来ることは致し方ない面があるのですが……。

というわけで,オンラインで質問項目を見ながら,内容的に「たぶんこの項目はこの因子だろう」と考えていきました。その結果,得点をおおよそ自分の意思で操作できる(これで満点を取ろうと思えばとることができる)ようになったので,おおよそ合っているだろうと思っています。


整理

さて,今でも16 Personalitiesを「MBTIだ」と考えている人が多いのかもしれませんが,そもそも,これはMBTIではありません。海外の企業が,MBTIの類型方法を模して独自に作成した心理検査(心理尺度,心理ゲーム)です。

この話は重層的なので,整理しておく必要があります。次の3つを,区別して理解しておくことが重要です。

1.ユングのタイプ論:心的態度として「外向ー内向」があり,4つの心理機能として「感覚」「直観」「思考」「感情」の4つがある。20世紀初頭,100年前の精神分析学の理論。
2.MBTI(Myers-Briggs Type Indicator):「外向(E)」か「内向(I)」か,「感覚(S)」か「直観(N)」か,「思考(T)」か「感情(F)」か,そして独自に「知覚(P)」か「判断(J)」かの組み合わせから人々を16種類に分類。1950年代〜60年代から存在しており,アメリカの企業などで流行してきた。日本では日本MBTI協会が管理している。
3.16 Personalities:MBTI風の類型方法を用いて人々を類型化することを提供する国外企業提供の(MBTIではない)オンライン尺度。日本でも多くの人が,これを「MBTIだ」と誤解している。

そしてもうひとつ。

4.ビッグ・ファイブ・パーソナリティ:1980年代から90年代にかけて,人間の語彙を分類整理したり理論的な整理から見出された,現在もっとも多くの心理学者にコンセンサスを得ている人間全体を記述する5つのパーソナリティ(性格)次元。外向性,神経症傾向(情緒安定性),開放性,協調性(調和性),勤勉性(誠実性)の5つ。

さて,では質問項目をざっと確認した上で,それぞれ思ったことを書いていきます。

外向型ー内向型

この質問項目は非常に分かりやすいと言えます。対人関係が広いとか,人と一緒にいるのが好きとか,そういう質問項目は16 Personalitiesの外向性に相当します。

でも……もともとのMBTIの質問項目って,もっと意味が広い範囲を測定しているはずなのです。MBTIの理論的背景になっているユングがいう「外向性」も,広い範囲の内容を指しているのです。それに比べると,16 Personalitiesの外向性の質問項目は,人間関係の内容ばかりだという印象があります。むしろビッグファイブに近い内容です。

しかし,16 Personalitiesの外向性(ー内向性)の質問項目は,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの質問項目の意味範囲よりも狭い範囲を測定している印象です。ビッグ・ファイブ・パーソナリティの外向性に含まれる,活発さや刺激希求性などの意味も16 Personalitiesの外向性では測定されていないようで,単に「人といるのが好きかどうか」という意味に狭められている印象があります。

というわけで……どうも「外向性」と名づけるには,測定されている意味が狭い範囲に限定されている印象を抱きます。

直感型ー観察型

本当であれば,これは「直観」と「感覚」のペアなのですが,16 Personalitiesだと「直感型」「観察型」と書かれています。ユング理論の「直観」は,可能性や全体像に基づいて情報を処理すること,「感覚」は五感を通じた感覚に基づいて情報を処理することを指します。

さて,16 Personalitiesの「直感型」に相当する質問項目は,あきらかにビッグ・ファイブ・パーソナリティの「開放性」だと考えられます。複雑なアイデアを好み,新しいことにチャレンジし,創造性に惹かれるといった項目だからです。ユング理論やMBTIの「直観」とは,測定される内容がずいぶん異なっています。これにMBTIと同じアルファベットを当ててしまって良いのでしょうか?

16 Personalitiesの質問項目は,内容としてユング理論とも異なっていますし,もともとのMBTIとも内容は異なっています。むしろ,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの開放性に意図的に近づけられている印象です。

思考型ー感情型

この名称は,ユング理論と合致しています。「思考」は論理や分析に基づいて情報を処理すること,「感情」は自分の感情や好き嫌いなどの価値判断に基づいて情報を処理することを指します。

なのですが,16 Personalitiesの「感情型」の意味は,感情を重視することだけでなく,判断が感情に左右されること,それだけでなく共感すること,思いやりを持つことなども含まれます。……これは,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの「協調性」を含めたような質問項目の内容だと思われます。

確かに,MBTIの「感情」に相当するような内容も含まれているように思うのですが,純粋な内容ではない印象です。ビッグ・ファイブ・パーソナリティの「協調性」が含まれているのではないかと思われます。

また,逆方向の思考型の項目はたしかに論理に基づく判断の質問項目になっている印象ですが,果たしてひとつの次元をどれくらい統計的に構成できるのかはよくわかりません。

計画型ー探索型

さて,もともとのMBTIでは,ユング理論に「知覚(P)」と「判断(J)」という軸が加えられています。自分を環境にあわせていくことが「知覚」で,環境を自分に合わせるように働きかけていくことが「判断」です。

これが16 Personalitiesでは「計画型ー探索型」に変えられています。

そして,おそらくこの軸に相当すると思われる質問項目を見ると……明らかに,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの「勤勉性(誠実性)」が「計画型」に相当します。整理整頓をする,計画を管理する,スケジュールを守る,などなど。これらの内容は,明らかにビッグ・ファイブ・パーソナリティの「勤勉性」です。そして,他の次元と同じように,「勤勉性の全体ではなく,勤勉性の中の一部」を測定するような質問項目に思えます。

MBTIとは……ずいぶん質問項目の内容が異なってしまっている印象です。

自己主張型ー激動型

さて,この組み合わせは,そもそもユング理論にもMBTIにも存在しません。16 Personalitiesの独自の組み合わせです。どうしてMBTIにひとつを加えたのか。もうあきらかに,ビッグ・ファイブ・パーソナリティに寄せるためではないかと推測します。

そして質問項目を見ると……まあ,想像通りですが,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの残りのひとつ,情緒安定性(=自己主張型),逆方向にすると神経症傾向(=激動型)だという印象を抱きます。プレッシャーに強いか弱いか,自分を疑いにくいか疑いやすいか,不安を抱きにくいか抱きやすいかなど,これらは全体的に,ビッグ・ファイブ・パーソナリティの神経症傾向の次元に含まれそうな内容です。

ビッグ・ファイブ・パーソナリティだった

さて,16 Personalitiesとは何なのでしょうか。類型のつくり方はMBTIの名称を流用していますが,質問項目は全く違います。むしろ,質問項目の内容は,MBTIとは関係のない,ビッグ・ファイブ・パーソナリティに近いものとなっています。

というわけで,16 Personalitiesとは,「ビッグ・ファイブ・パーソナリティ(の概念の一部)の質問項目を用いて,MBTI的な類型の名称を流用して人々を類型化する心理尺度」といったところではないでしょうか。

いやどう考えても,これは絶対にMBTIではないですよ。この質問項目で「MBTIだ」と断言することは,まず無理です。ビッグ・ファイブ・パーソナリティの質問項目を参考にしてテストをつくり,類型化をする時にMBTIを流用したというところでしょうか……これだけ流行させたのですから,うまい商売ですよねえ。

お金が集まる

さて,判定の内容を見るためにはお金を支払わないといけません。今や,iPhoneやMacで16 Personalitiesに回答すると,そのままApple Pay で支払うこともできるようになっています。おそらく,相当数の人々が解説を見るためにお金を支払っているのではないかと。ひとつの商売ですので,それを止めようとは思いませんが。

そして,お金が集まれば,テストを改訂していくことも容易です。私のような人間がこういった記事を書いてしばらくすると,質問項目の内容が改訂されていく,ということも十分に考えられます。そういう人員は確保されていることでしょう(海外の企業なので日本語の記事は相手にしないかもしれませんけどね)。そして工夫すれば,テストの妥当性も高めることができます。判定の枠組みは残して,質問項目の内容を調整してより予測力を高めたりより明確な因子構造にしたり,そういうことも難しくはないことでしょう。

測定用具の批判は,改善を促していくことになるだけだと思われます。心理学者が測定用具について批判すれば,道具なのですから改善されるだけです。


隠してはいない

さて,16 Personalitiesは,ビッグ・ファイブ・パーソナリティからインスパイアされたことを隠してはいません。むしろ,MBTIとビッグ・ファイブ・パーソナリティを「組み合わせた」と,はっきり書いています。MBTIの4次元に1つ加わればビッグ・ファイブ・パーソナリティと同じ数の次元になります。そして文字を1つ追加して5つの高低を組み合わせると2の5乗で32種類の類型(タイプ)ができあがるのです。

今回,何度か回答を試してみて,ある次元の全ての項目にその方向の回答をすると「100」になることも確認しました。また,ある次元の全ての質問項目に右端あるいは左端で回答すると,中央付近50%になることも確認しました。正方向と逆方向の質問項目がおおよそ均等に含まれている場合は。

どうやら得点を,回答の選択肢の中央(7段階なので4が真ん中になります。10項目なら40点)から「外向型」か「内向型」か,などを分類しているようです。ちょうど真ん中が人々の平均値になるとは限りません。ですからこれをやると,次元によって平均値が異なるので,類型化した後の人数が偏るのですよね……平均値で類型化すればもっと人数は均等に近くなるはずなのですが(それでも,5つの次元が相互に直交つまり関連がほとんどない状態じゃないといけませんが)。各国でデータをとったあとじゃないと類型化できないので面倒ですけれども。

これも「日本人はこのタイプが多い(少ない)」みたいなことがよく書いてあるので,気になったポイントでした。平均値で分割すれば「外向型」と「内向型」は同じ人数になります。(得点分布が左右対称になっていないといけませんが)。人数が偏るということはもしかして平均値を使っていないのか,と。

さて,この現在の流行は今後,どうなっていくのでしょうね。他にもあれこれと問題点を思い浮かべることはできますが,それはまた別の機会に(書くかどうかはわかりません)。

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