
知能にまつわる35の神話
知能については,あれこれ言われることがたくさんあります。今回は,35項目にのぼる知能にまつわる神話や誤解をまとめた論文について見てみましょう。
果たして,どんな内容が出てくるでしょうか。皆さんも一つ一つの項目について考えながら確認してみてください。
議論の余地
ただし,論文を読んでいて私自身も納得できないポイントもありました。論文で扱われている項目はある本からとっているのですが,その本の内容も全面的に肯定できる,というわけでもなさそうです。この問題は未だになかなか難しいところがあるようで……。
では,こちらの論文を見てみましょう(Myths and misconceptions about intelligence: A study of 35 myths)。
この研究では,人々が知能や知能検査についてのさまざまな神話をどれくらい信じており,指示しているかを検討しています。275名が調査に参加して,それぞれの記述が正しいと思うか誤っていると思うか,アンケート調査で検討しました。
In The Know
ちなみに,それぞれの項目はこの本に書かれている内容からとったようです。
著者はアメリカの心理学者,Russell T. Warneです。
ちなみに論文の筆頭著者は,世界的にみても論文量産者のひとり(?)である,心理学者Adrian Furnhamです。
どんな神話を信じるのか
では,論文のなかではどんな神話について検討されているのでしょうか。いくつかピックアップしてみましょう。
◎知能とは,心理学者がテストで出す課題の集合体である
→これはどういうことでしょうね……心理学者がテストで出すものはすべて知能を測定するものだと考えがち,ということでしょうか。もちろんそんなことはありません。
◎知能は複雑なので,一つの数字でまとめることはできない
→知能が互いに関連がない複数の側面から成り立つという理論はありますが,実際の研究のなかでは互いに関連がある課題を総合して一般知能を測定しますので,まとめることは可能です。数学のテストの中に複数の下位側面が含まれるのと同じです。
◎IQは脳の解剖学的構造や機能とは関係がない
→関係がないとは言えないでしょうね。
◎西洋的な知能観は,非西洋的なものには関係ない
→知能の構成概念そのものは共通しています(じゃないと研究できませんからね)。なお「頭の良さ」についての一般的な印象や認識,ステレオタイプには違う部分もあります。
◎人間のこころには多数の知能が存在する
→多重知能理論というものはあるのですが,他の心理学者が知能の概念のなかに含まないようなものまで含めてしまう傾向があります。また多重知能理論をどのように実証するのかというのもなかなか難しい問題に思えます……まあ,これは研究者の立場によるのかもしれません。一般知能「g」も,単純にすぎるという見方もあります。
◎実用的な知能は,一般的な知能とは別の真の能力である
→たぶん,ある能力が現実に役立つかどうかは「結果論」だと思うのですよね。そこに何かの能力の違いがあるのではなく,ある状況下である能力が発揮されるという組み合わせではないでしょうか。
◎知能を測定することは難しい
→もちろん簡単ではあり産ませんが,知能検査はけっこう単純な問題でできています。
◎知能検査の問題は取るに足らないものであり,知能を測定することはできない
→知能はやはり知能検査で測定されるものです。一般的にいう「頭の良さ」とか「素質」とかについては,また別の話ではないでしょうか。
◎知能検査は完全ではないので信用できず使うべきではない
→妥当性の観点から言えば,知能検査は心理検査のなかではずいぶんちゃんと信頼性と妥当性が検討されているほうではないでしょうか。それに,病院や検診など,社会のなかで使われていますからね。
◎知能は個人の豊かさや社会的地位を反映しているにすぎない
→「だけ」というわけではありませんね。こういう過度な単純化をする言い方には要注意です。
◎知能は強く遺伝に関連しているので,IQを高めることは不可能である。
→そもそも強く遺伝に結びついているとされる心理特性であっても,環境の影響がゼロということではありませんし,環境が不要という話にはなりません。
◎遺伝は知能にとって重要ではない。
→だからといって,遺伝が関係ないという議論も成立しません。「あるか・ないか」という議論に陥りがちなのも,この手の話の特徴です。
……さて,まだまだあるのですが,ざっと見てくると議論の余地がありそうなものも項目の中に含まれてきていそうだということがわかります。書籍からとった内容ですので,もとの本も読んでみたいところですね。
さて,amazonでは比較的高く評価されているこの本ですが,唯一といっていい,この本を低く評価しているレビューを見つけました。しかし,無茶な批判ではないように思うのですが,どうでしょうか。
知能をどのように捉えるのか,という問題は本当に難しいと思わされた論文でした。
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