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小説を読むと共感性が高まる(ただしのめり込んで読めたときだけ)

「自分の人生に影響を与えた本」というものがありますか?

私の場合は何でしょう……学生時代に読んだ本『書を捨てよ、町へ出よう』や『家出のすすめ』でしょうか。学部時代の自分はだいぶアイデンティティ拡散状態でしたので,こういうアジテーションに弱かったのかもしれません。

今日は,本を読むことの影響について研究した論文を見てみたいと思います。


フィクション

しばらく前に,しきりと子どもが「フィクション」と「ノンフィクション」の違いについて話していました。学校で何か勉強してきたからかもしれません。

もちろん,フィクションが架空の創作で,ノンフィクションが史実や事実に基づいた創作のことです。

ただ,その境界はそれほど明確というわけでもないように思います。そして境界が曖昧なものは,ときに厄介な問題として持ち上がることがあります。「ねつ造だ!」「事実はそうではない!」といったかたちで。

架空のお話

毎日,本を読んだり映画を観たり,TVドラマやアニメに接したり,多くのフィクションを見聞きしています。

考えてみれば,TVドラマのなかだけでも毎日何人が殺されているのでしょうね。こんなに多くの人がTVドラマのなかで毎日殺されているのに,現実の殺人事件がそこに結びつけられないのは(そしてアニメやネットには簡単に結びつけられる傾向があるのは)興味深い現象です。「当たり前」だと思われているからでしょうか。

しかし,架空のお話であっても,私たちは何かしらの影響を受けているはずです。

たとえば,日本の殺人件数を直観で答えてもらうと,現実よりも多めの数字を答えがちなのですが,もしかしたら毎日多くの人がドラマのなかで殺されているのを見ているからかもしれません(わかりませんが)。

ナラティブ

ものごとを筋道立てて結びつけ,因果関係をつなげて意味づけたりする行為は,ナラティブと呼ばれます。

そして,自分の過去の経験についてのナラティブをパーソナルナラティブ(PN),架空のストーリーをあつかうことをフィクショナルナラティブ(FN)と言うそうです。

また,自閉症スペクトラム障害の子は,このフィクショナルナラティブの構成に特徴があるという研究もあるようです。

フィクションと共感性

フィクションのストーリーを読ませて,共感性が高まるかどうかを検討した論文があります。架空の物語が何らかの形で私たちのなかに取り込まれ,フィクショナルナラティブの構成に影響するのであれば,私たちがいろいろなことを語る枠組みにも影響するのかもしれません。

66人のオランダ人学生をランダムに実験群と統制群に分けます。全員,まず質問紙に回答してもらい,そのなかに共感性の尺度が含まれています。実験群は小説,統制群は新聞記事を読み,読んだ後でふたたび質問紙に回答してもらいます。さらに,しばらく経ったあとの影響も検討するために,1週間後にも質問紙に回答してもらいました。

小説の題材

実験は2つ行われていまして,それぞれ違う小説が使われました。

実験1では,コナン・ドイルのシャーロック・ホームズスリーズ,『六つのナポレオン像』です。長さは2750単語で,パソコン画面で読んでもらったそうです。

実験2で使われた小説は,ポルトガルのノーベル賞作家ジョゼ・サラマーゴの『白の闇』でした。

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