
2種類の自己愛はどちらのほうが攻撃性に結びつくのか
世界中を見ると,暴力というのはとても大きな問題となっています。さまざまなあつれきの中で暴力行為に及ぶこともあるでしょうし,警察から市民に対する暴力もときに話題になります。世界で見ると,15歳から44歳までの人々の主要な死因のひとつで,世界中で毎年100万人以上が亡くなっているそうです。
身体的な暴力や言語的な暴力は,ほかの人から見ても明らかに「暴力」だとわかるものです。その一方で「攻撃性」ということばを使うときには,その内容に観察できる行動も,認知的・心理的なプロセスも含んでいます。認知的・心理的プロセスとしては,他者に対する敵意や怒りなどが代表的です。
攻撃と性格
これまでにも,性格(パーソナリティ)と攻撃性との関連は繰り返し検討されています。たとえば,ネガティブな感情を抱きやすい神経症傾向は,攻撃的な感情を抱く傾向にも強く関連しています。また,協調性や勤勉性の低さは,攻撃的な行動の示しやすさに関連する傾向が明らかにされています。
さらに近年,ダークなパーソナリティが攻撃性に関連することも示されています。ダークなパーソナリティは,マキャベリアニズム(他の人を利用する),ナルシシズム(誇大で自己中心的),サイコパシー(冷淡で人の痛みを感じない)という組み合わせなのですが,やはり他の人々に対して冷たく,他の人を軽視する傾向に関連しますので,攻撃性にも関連すると考えられます。
ナルシシズム
ダークなパーソナリティのひとつであるナルシシズムだけを取り上げても,攻撃性との関連はさまざまな面から考えることができます。
たとえば,ナルシシズムには誇大な側面と過敏で脆弱な側面があります。誇大な側面は自分に対して自信がありほかの人に対する共感性に欠ける傾向があります。過敏な側面は,他者からの評価に敏感で過剰に反応する傾向があります。
そして,どちらの側面も攻撃性に関連します。誇大な側面はほかの人のことを十分に考えない傾向がありますので,そこから攻撃へと結びつくと予想されます。一方で過敏な側面は他者から侮辱されたり攻撃されるという認識をすぐに抱く傾向がありますので,そこから他者に対するネガティブな反応に結びつきそうです。
実際に,ナルシシズムの側面は攻撃性とどのように結びついていくのでしょうか。攻撃性についても複数の側面から検討して,関連を検討した研究があります。こちらの論文を見てみましょう(Don't set me off—grandiose and vulnerable dimensions of narcissism are associated with different forms of aggression: A multivariate regression analysis)。
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日々是好日・心理学ノート
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