
組織不正はいつも正しい
今回紹介する本は,『組織不正はいつも正しい:ソーシャル・アバランチを防ぐには』(光文社,2024年)です。
「不正」に対して「正しい」という相反する意味の言葉が使われていて,なかなか魅力的なタイトルです。
事例
この本の興味深いところは,これまでにも大きく報道されたようなさまざまな不正を例に挙げながら,組織不正について考えていく点にあります。
第2章では三菱自動車やスズキの燃費不正,第3章では東芝の不正会計,第4章では医薬品をめぐる品質不正,第5章では軍事転用不正の疑いをかけた公安部の問題が扱われています。いずれも詳しく組織不正の様子が描かれていて,参考になります。
組織不正
組織不正でよく取り上げられるのが,不正のトライアングルというモデルだそうです。これは,人間が不正に手を染めてしまう背景に,3つの要素を想定します。
◎機会:いつ,どのような状況意で不正ができるのかという環境を,不正を行う人は知っている
◎動機:不正をしようとする意志やプレッシャーなど,積極的な意志や消極的な意志
◎正当化:自分自身を正当化する
このモデルは不正を「個人のせい」にしがちです。しかし,実際の不正の事例を見ていくと,組織で生じる不正が,個人の意志や意図から離れて生じていくことが想像されるのです。
組織の中では,個々人はそれぞれ自分自身が考える「正しさ」に沿って行動していきます。この個々人の「正しさ」が,集団になると不正につながっていくというのです。
社会的雪崩
それが,本書の副題である「ソーシャル・アバランチ」つまり「社会的雪崩」です。
◎個人が「正しさ」をもつ
◎「正しさ」は望ましいものであり,根拠を検証されにくい
◎個人の「正しさ」の追求は周囲に波及していく
◎「正しさ」の追求が,組織や社会へと広がっていく
◎組織全体としては,結果的に不正となってしまう
個々人の行動はそれぞれが「正しい」と判断したもとで行われますので,全体で不正が生じたとしても,それが個々人の「正しさ」の追求の結果だということには,なかなか思い至りません。
組織不正の裏にある個々人の「正しさ」というのが,本書のタイトルに隠された意味だということですね。
ここで少し考えてみると,個人の「正しさ」ゆえに組織的な誰が起きること(個人としては「正しさ」が示されているにもかかわらず,組織全体の不正状態が加速したり,最悪の場合組織運営ができなくなるような状態)が,これまでに論じてきた組織不正現象であると言えるでしょう。つまり,個々人のレベルでは「正しさ」が追求されていて,どこにも問題があるようには思えないにもかかわらず,組織的に「危うさ」を抱えてしまうという状態のことです。
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