性格特性は5つじゃなくて6つです!
以前の記事で,辞書から性格を表す言葉を抜き出すことで,人間全体の性格(パーソナリティ)がいくつからできているのかを調べる研究の歴史があったことを説明しました。
そこから,おおよそ5つのパーソナリティ特性で全体を説明する,ビッグ・ファイブ・パーソナリティという枠組みができあがっていったことにも触れました。
ビッグ・ファイブ・パーソナリティを紹介する記事は次の通りです。
・外向性 → 外向性は外交性でも社交性でもありません
・神経症傾向 → 神経症傾向(情緒不安定性)にも良い面はあるのですか
・開放性 → あなたの心はオープンしていますか
・協調性(調和性) → 「やさしい人」の欠点
・勤勉性(誠実性) → まじめな性格の人は無理をしているわけではありません
これらは,本の中でも扱っています。ぜひどうぞ。
今回は,「人間の性格全体は5つじゃない!6つだ!」ということを主張した,カナダの研究者たちの研究を説明してみようと思います。
H因子
この「性格特性は5つじゃない,6つだ」のモデルで特徴的なのは,「H因子」と呼ばれる因子です。これは,Honesty-Humilityと呼ばれており,日本語が難しいのですが「正直さ—謙虚さ」(とか「公正さ—謙遜」)といったところでしょうか。
H因子のなかには,「誠意」「公正」「強欲の回避」「つつましさ」といった下位次元があります。自分の欲を抑え,公正で正直で礼儀正しく,謙遜する傾向を意味しています。
H因子の発見やその後の研究の様子については,この本に詳しく書かれています。分厚い本ではないので読んでみてください。
そういえば,前回の総裁選に立候補した石破茂氏のキャッチフレーズが「正直,公正」でしたね。これがH因子の方向性に近い意味ということです。どうも党の中で不快感をもたれたという記事もありましたが……逆方向ということですか?
では,H因子とは反対の方向になる心理特性についてです。そのひとつが,ものや金銭や権力をより多く手に入れようとするあくなき欲求である「強欲(greed)」です。別に,特定の政党の方々がそうだということを言いたいわけではありません。
私は強欲の尺度をつくる研究にも参加しました。これがH因子の逆方向になる心理特性のひとつです。論文はこちらをどうぞ。
HEXACO
この6因子モデルは,HEXACO(ヘキサコ)と呼ばれています。
英語の接頭辞 “hexa-” は,「6」を表します。6因子モデルですので,語呂もちょうど良い,おしゃれでうまい名前のつけ方ですね。でも,Eが外向性かと思いきや……実は外向性だけ頭文字ではないのでやや強引ですけれど。
・H: Honesty-Humility(正直さ—謙虚さ)
・E: Emotional Stability(情緒安定性)…神経症傾向の逆でBig Fiveとおおよそ同じですが,内容の一部がH因子に入るため完全に同一ではないようです。
・X: eXtraversion(外向性)…Big Fiveの外向性とほぼ同じ
・A: Agreeableness(協調性・調和性)…Big Fiveの協調性と大体同じですが,部分的にH因子に内容が吸収されているため全く同じではありません。
・C: Conscientiousness(勤勉性・誠実性)…Big Fiveの勤勉性とほぼ同じ
・O: Openness to Experience(開放性)…Big Fiveの開放性とほぼ同じ
おおよそビッグ・ファイブ・パーソナリティにH因子を追加したような形になっていることがわかります。ただ,部分的に多少の違いがあるようです。
カナダの研究
HEXACOモデルを提唱しているのは,カナダの研究者リーとアシュトンです。
ビッグ・ファイブ・パーソナリティがアメリカ発の理論ということもあり,その後発かつアメリカ以外のパーソナリティモデルとして,またビッグ・ファイブのオルタナティブとしてHEXACOが注目されてきたという経緯がありました。
一時期は「これからは,パーソナリティは5つじゃなくて6つだ」と言われるくらいの勢いがあったようです。最近,その勢いは少々弱まっているようにも感じられますが,研究のなかではじゅうぶんに定着していますね。
辞書の研究から
HEXACOモデルが注目されたひとつの理由は,語彙研究からやりなおして6因子を見出したという点にあります。
辞書を調べ,単語をまとめ,調査をしていった結果として,ビッグ・ファイブ・パーソナリティでは見出されなかった「もうひとつの因子」を見出したという発見が注目されたということです。
H因子の価値
このH因子は先ほど強欲と関連すると言うことを紹介しました。そのほか,これまでの研究の中で,H因子がとあるパーソナリティ群ととてもよく,安定して関連を示すことでさらに注目を集めていきます。
それは,ダーク・トライアドです。ナルシシズム,マキャベリアニズム,サイコパシーの3つの特性はどれも,H因子とマイナスの関連をする点で共通しているのです。ダーク・トライアドの研究が世界中で行われるにつれて,それらと密接に関連するH因子をもつHEXACOも注目されていったという印象があります。
ダーク・トライアドについてはこちらの記事をどうぞ。
5つか6つか?
現在は,ビッグ・ファイブなら「ああ,ビッグ・ファイブね」。HEXACOなら「ああ,HEXACOね」といった感じで,どちらのほうが優れているとかそういう問題ではなく,研究上は併存している印象があります。
ビッグ・ファイブ・パーソナリティで十分説明できる現象もあれば,HEXACOを使った方がうまく説明できる現象もある,といった感じでしょうか。
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