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こころの「良さ」とは何か

現代ビジネスに,『私たちは「ポジティブであること」を、絶対視していいのだろうか—こころの「良さ」とは何だろう』という記事を書かせていただきました(2019年9月22日)。


近年,知能や学力ではない,社会にとって役に立つとされる特性を非認知能力(non-cognitive skills)と呼ぶことがあります。この背景には,ノーベル経済学賞を受章しているシカゴ大学の経済学者ヘックマンが提唱しているという要素が大きいように思います。

非認知能力という日本語がついていて「能力」という言葉を使うと,生まれながらに持っていてなかなか変化しにくい特性だと考えがちですが,英語だとskill(スキル)となっているので,「学んで身につけることができる」というニュアンスが強そうです。

この中に何が含まれるかということですが,おおよそ次のような心理特性が取り上げられています。

◎忍耐力・Grit(グリット):長期間の目標に向かって熱心に取り組んでやり抜く
◎自己コントロール:特定の考えや価値や道徳や社会的期待に自分を合わせて,目標を達成する
◎社会的スキル:他の人に合わせて振る舞い方を調整する
◎好奇心:いろいろなことに興味を持つ
◎創造性:新しいことを思いつく
◎レジリエンス:落ち込みから立ち直る

他にもいろいろとあるとは思うのですが,正直言って「非認知能力の中身はこれだ」と完璧なリストが作られているわけではありません。どうしても「知能や学力以外で良さそうなものを集めた」という印象を抱いてしまいます。

こういった特性がどうして「良い」とされるのでしょうか。それは,研究のなかで「良い結果をもたらす」ことが示されてきているからです。学業成績の向上や,職業パフォーマンスの高さ,収入の多さや社会的階層の高さ,そしてなかには長生きを予測するなど,人々が「良い」と考える結果を予測する結果が論文に報告されてきたことが大きいのです。

そしてもうひとつの要素は,知能と比べて非認知能力の方が「変わりやすい」と考えられることが背後にあるのではないかと思っています。知能は遺伝率が高いですからね。それに比べると,非認知能力として取り上げられる心理特性は,そこまで遺伝率が高くは推定されません。ということは「教育でなんとかなる」と考えられがちであることを意味します。さらに,非認知「スキル」とあえて書いているところにも,「獲得できる」というニュアンスが込められているように思います。

なお,遺伝率が高いからといって親から子にそのまま伝わるわけではありませんので要注意です。

さて,現代ビジネスの記事は,このような「良い」心理特性を追い求めることに問題はないのか,という観点で書かれています。

詳しくは記事を読んでいただくと同時に,この内容は以前新書に書いたものにも通じることです。こちらもぜひどうぞ。

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