
自分の声を聞きたくない
今回のウィルス問題への対処として,多くの大学では授業が全面的にオンラインへと移行することになりました。私の大学でも授業の開始ゴールデンウィーク明けになりますので,それまでに授業の準備を進めて,必要に応じて自分の授業内容の動画や音声を録音・録画する必要があります。
聞きたくない
昔からそうなのですが,自分の声を録音したものを自分で聞きたくなかったのです。
子どもの頃,ラジカセでカセットテープに自分の声を録音して遊んでいたことがあるのですが,まず自分の声を客観的に聞いたことがありませんのでとても違和感があり,またなんだか嫌な気分がしてくるのですよね。
昔は固定電話に自分の声で留守番電話のメッセージを入れたりもしていました。でも,その声にも違和感があって嫌な感じでした。
こういうのって,どうしてだろう?と不思議に思っていたものです。
自分を意識する
普段わたしたちは,それほど自分の身体の動きを意識しているわけではありません。呼吸も歩行も,身体は自動的に動いていますからね。
ところが,自分の声を聞いたり自分の姿を見たりすると,自分を意識しはじめます。これを,DuvalとWicklundは「objective self-awareness」と呼びました。客体的自覚理論とか,自己客体視理論と呼ばれます。
落ち込む
自分に注意が向かうと,理想的な自分と現実的な自分の両方に注意が向かいます。すると,そのズレを認識しやすくなり,落ち込むことが多くなる,というのがよくあるパターンのようです。
そういう理論があるんだと大学生の時に学んだとき,ああ,だから自分は自分の声を聞いたりすると嫌な気分になるんだ,ということを知ったのでした。
自意識特性
この自意識は,普段から高まりやすい人とそうではない人がいます。一種のパーソナリティのような個人差特性なのですが,これを自意識特性と呼んだりします。
それが,Fenigstein,Scheier,Buss(1975)による,私的自意識と公的自意識の話につながっていきます。
自意識の高まりに関する質問項目を集めて因子分析すると,自分の内面に注意を向ける「私的自意識」,自分の外面に注意を向ける「公的自意識」,それから社会的不安を表す因子に分かれたという研究です。
共通要素
この自意識特性とビッグ・ファイブ・パーソナリティとの関連を検討した研究もあるのですが,公的自意識も私的自意識も,ともに神経症傾向とプラスの関連をとるところが共通しています。自分に意識を向けるとネガティブな感覚になりやすい,という傾向はこういうところにも結果として出てくるようです。
それにしても,世の中のYouTuberたちはよく自分の顔を自分で見ながら動画編集ができるものだと感心します。きっと論文を調べれば,自己客体視から落ち込みに至らないような調整要因が何かが見つかると思うのですが,それはまた調べてみたいと思います。
というわけで,どうしても録音できているかチェックしなければいけないのですが......できればオンデマンド講義を自分で聴きたくない!という心の叫びでした。
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