原因を求めるときのクセ
私たちが何か原因を求めるとき,色々と特徴的なクセがあります。
そもそも,私たちは世の中に起きている出来事の一部しか見ていませんので,全ての出来事を考えに入れてその原因を考える,なんていうことはできないことです。
それは,ネットの情報でも同じです。「たいていのことはネットに書かれているから,誰もが正しく判断できるだろう」と考えるかもしれませんが,実際に起きることはその逆です。ありとあらゆることがネットに書かれるようになった今は,その情報を全て見渡すことは不可能になっていて,私たちはそのほんの一部だけを選んで見て,それをあたかも全てであるかのように思ってしまっています。
そんな世の中で私たちが情報を得るときに抱きがちな,原因を求めるときの歪みである原因帰属バイアスについて今回は考えてみたいと思います。なおバイアスというのは,先入観や偏見,偏りのことです。
基本的帰属バイアス
私たちは基本的に,実際よりも内的な原因を多めに認識する傾向にあります。状況要因よりも「その人自身」の原因を強く求める傾向にあるということです。
たとえば,3人の実験参加者が実験室にやってきます。くじを引き,クイズの出題者,回答者,観察者に割り振られます。
クイズの出題者役の人は,回答者ができるだけ答えられないような,自分だけが答えを知っているような問題を作って出題するように求められます。
回答者役の人は,その問題に解答しようとしますが,なかなか答えることができません。
そして観察者役の人は出題と解答をしている様子を見た後で,出題者役の人と回答者役の人の知的能力がどのくらいだったかを推測してもらいます。
すると,出題者は回答者よりもずっと知的能力が高いと推定してしまいます。
しかし少し考えてみれば,誰でも出題者役になれば自分しか知らないような問題をつくることができますので,誰が回答者になってもなかなか回答できない状況になるはずです。
このように,人の行動の原因が,その人自身にあると私たちはつい考えてしまいがちです。状況の要因を過小評価してしまうのです。
ちなみにこの現象は,対応バイアス(correspondence bias)と呼ばれることもあります。
行為者-観察者バイアス
駅で歩いているときに転んでしまいました。自分では,ここがこんなに滑りやすくなっているからだ,と地面が原因だと考えます。ところが,遠くでその様子を眺めていた人は,「あーあ,滑っちゃって。ドジな人」と,その人自身に原因を求めてしまいます。
このように,他者の行動を見たときには対応バイアス(基本的帰属バイアス)が生じやすいことを,行為者-観察者バイアスといいます。
車の運転をしているとき,自分が信号無視をすることは「タイミングが悪かった」と状況のせいにし,他人が信号無視をすると「危険な運転をする人だから」と,その人自身の原因を過剰に見積もります。
自分が行動するときには,自分の視点は自分の外を見ていますし,他人の行動はその人自身を見ています。このような視点の違いがそのような違いを生み出すのかもしれません。
行為者-観察者バイアスのメタ分析の結果は?
このバイアスがどれくらい生じるのかを検討したメタ分析の研究があります。
タイトルがその結果を物語っているのですが……“The actor-observer asymmetry in attribution: a (surprising) meta-analysis”……「(驚くべき)メタ分析」!
この論文では,173本の先行研究が取り上げられ,メタ分析による統計的な再分析がかけられました。
効果のほどは?
驚くべきことに,行為者-観察者バイアスの効果は
◎ d = 0.095
と,ほとんどゼロに近いような値しかありませんでした。
話を聞くと,「そうそう!そうだよね!」と誰でも同意するような行為者-観察者バイアスであるにもかかわらず,メタ分析によると「そんなに効果はありませんよ」という結果だったのです。
ということから,論文のタイトルに「(surprising)」とつけられていたというわけです。
どんなときに効果が現れるのか
メタ分析をする中で,どんな実験でこのバイアスが効果が生じるかについても検討されています。
まず,他者が普通ではないような状況に置かれている場合に,観察者のバイアスが生じやすいようです。研究の中でも,不倫やリハビリの失敗,いかさまなど,あまり日常的ではない状況が使われているようです。
また,実際的な場面よりも仮想的な場面が実験に使われたときに,このバイアスが生じやすいようです。
そして,相手が親しい関係の時のほうが,まったく知らない人の時よりも,このバイアスが生じやすいようです。
もうひとつは,自由な回答をすることです。状況を見て何段階かで回答するときよりも,自由にあれこれと言葉にできるときの方が,バイアスが生じやすいようです。
いつでもこのようなバイアスが生じるわけではありませんが,原因を求めたときにちょっと注意してみるのは良いことかもしれません。
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