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インパクト・ファクターの話

実は私の大学には,「ハイ・インパクトジャーナル掲載支援プログラム」というものがありまして,「インパクトの高いジャーナルに投稿論文が掲載された際に、それに係って発生した諸経費を補助します」という趣旨の制度になっています。ジャーナルのインパクト・ファクターの上位何%以内に位置する雑誌に掲載された場合にその経費を補助します,というものです。

心理学の雑誌も対象になっていて,リストに挙がっている雑誌に掲載されたときには申請することができます。大学としてこのような形で研究者を支援することに対しては,理解できるのですけどね。しかしそもそも研究分野によっては,対象となる雑誌が存在しないものもあります。

インパクトファクター

インパクトファクターは,対象となる年の2年前の間にある雑誌に掲載された論文が,その年に引用された本数から算出される,雑誌につけられる数字の指標です。ある雑誌に2018年に100本,2019年に100本の論文が掲載されて,2020年にそれら200本の論文が400回どこかで引用されれば,インパクトファクターは2になります。

ほかにも,5年分を計算する指標とか,重み付けをするとか,いろいろな指標が考えられています。

とはいえ,インパクトファクターはあくまでも雑誌につけられる数値であって,論文や研究者の評価に使える指標ではありません。またインパクトファクターが2であっても,その雑誌に掲載されているすべての論文がインパクトファクターの回数引用されるわけではありません。200本中1本の論文が400回引用されても同じ数字になります。また,できるだけ新しい論文をたくさん引用し,投稿してから短期間で論文が掲載される研究分野であるかどうかによっても数値は異なってきますので,異分野間の比較をこの数値でおこなうことには無理があります。

本の中から

インパクトファクターについては,本の中でも取り上げられることが多くなっています。いくつか引用してみましょう。

このように,インパクトファクターの実態は浅薄極まるものであるにもかかわらず,わが国では軽薄にも,この値を過度に尊重し,多くの大学,研究機関で,職員の採用,あるいは昇任に,候補者が過去に発表した全論文のインパクトファクターの合計値を,人事決定の最優先事項として用いるようになった。(p.37)
もしもあなたが自分の履歴書の研究発表一覧にジャーナル・インパクト・ファクターを含めたのなら,あなたは統計に関して無知だ。
もしもあなたが助成金や昇進の申請を判断している最中で,その際に申請者の研究発表を見渡し,インパクト・ファクターにチェックを入れたのなら,あなたは統計に関して無知だ。(p.241)
 2004年5月に,朝日新聞の視点欄に「研究評価/誤った指標の活用を改めよう」ということで,インパクトファクターについて発表するチャンスがあった。そこでは,研究評価にインパクトファクターを利用することを強く批判する内容の提言をした。この記事がきっかけかどうか確証はないが,文部科学省内でインパクトファクターを誤用した研究評価のしかたを誰が提唱したのか,問いただす動きがあったという。これを聞いて「マッチポンプ」という言葉が,脳裏に浮かんだ。研究評価指標としてインパクトファクターの誤った使用を提言した側の人間が,そのことを忘れ犯人探しをしている姿だ。政策的に助成資金が増大し,研究費の比重が競争的資金へとシフトするなかで,きちんとした定性的な評価に時間をかける体制をつくれないまま,安易な定量的指標の使用を助長したのは助成側ではなかったのか。また,7章で触れたように学会を代表する研究者が,自分たちの発行する雑誌を意図的に引用し,自誌のインパクトファクターを高めるよう公式ページや学会で述べていた事例もあり,誤用例は限りないのが現状である。(p.157-158)
 近年,インパクトファクターへの依存をあらためる動きも出始めている。研究評価にかんするサンフランシスコ宣言(DORA)では,雑誌のインパクトファクターと研究の意義を結びつける慣習をやめるように提言された。同宣言によれば,この慣習によって,偏りのある不正確な研究評価が行われている。インパクトファクターは「個別の研究論文の重要性の尺度として,あるいは採用や昇進や研究費の判断に」用いられるべきでない,と同宣言は主張している。(p.213)

インパクトファクターや関連する指標に対して,警告する内容が多いですね。

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