完全主義か完璧主義か問題
◎完全主義
◎完璧主義
あなたはどちらの表現を使いますか?どちらも,“perfectionism”の日本語訳ですが,人によって完全主義を使いたがる人と,完璧主義を使いたがる人の両方がいます。
日本語Wikipediaでは「完璧主義」が表題になっています。もちろん,英語記事の場合にはperfectionismが表題です。
……ところが私自身は「完全主義」を使う派なのです。
同じような問題は,
“self-esteem”を「自尊心」と訳すか「自尊感情」と訳すか,
“personality”を「人格」と訳すか「性格」と訳すか,
といったところでも見られます。
Googleに聞いてみよう
困ったときはGoogleに聞いてみましょう。「完全主義」と「完璧主義」で,何件の検索結果が出てくるでしょうか。検索文字列をダブルクォーテーションで囲むことで,そのフレーズだけを検索することができます。
完全主義の検索結果は,約712,000件でした。
その一方で,完璧主義の検索結果は,約1,350,000件でした。
完璧主義は完全主義の約1.9倍,2倍近くの検索結果が出てきました。
「完璧主義」の圧勝です。
CiNiiに聞いてみよう
では次に,論文や学会発表論文を検索することができる,国立情報学研究所のデータベースCiNii(サイニィ;Citation Information by NII)を使ってみましょう。
同じように,完全主義で検索すると,251件がヒットしました。
完璧主義で検索すると,54件がヒットしました。
「完全主義」のほうが完璧主義より4.6倍の検索結果となりました。Googleとは違い,完全主義の方が多く検索結果に出てきました。GoogleとCiNiiの結果が逆になっているのは面白いですね。
J-STAGEに聞いてみよう
次は,もうひとつ,研究で頼りにするデータベースを使ってみます。独立行政法人科学技術振興機構(JST)が運営する,J-STAGEです。
完全主義で検索すると,873件がヒットしました。
完璧主義で検索すると,259件でした。
J-STAGEでも,やはり完全主義の方が圧倒的に多いという結果でした。
研究の場面では,「完璧主義」よりも「完全主義」を使うほうが多そうなのです。私自身も,いろいろな論文を読む中で,「完全主義」のほうに馴染みがありますので,私自身はなんとなく「完全主義」を使う派になっているというわけです。
本のタイトルを見てみる
本を検索してみても,やはり一般向けの本では完璧主義を使って,専門書では完全主義を使うという傾向が見られます。
たとえば,どちらかというと一般向けの書籍の場合には「完璧主義」がよく使われます。
そして研究書の場合には「完全主義」です。
完璧
学校で習ったように,「完璧」は中国の故事成語です。
「璧」の文字は,傷のない宝玉を意味しています。だから「壁」じゃなくて「璧」と下に玉がついているのだよ,と学校で教えてもらったのではないでしょうか。
そして,このような話を背景にしていますので,完璧には「欠点や不足がなく,非常に立派なこと(さま)」という意味があります。
完全
「完全」も辞書で調べてみましょう。
完全という言葉には,「必要な条件がすべて満たされていること。欠点や不足が全くないこと」「欠点などがないようにすること」という意味があります。
完璧か完全か
完璧と完全を比べてみると,「完璧」の方には「立派なこと」という意味が含まれている点が違っています。「完全」にはそういうニュアンスはなく,基準や条件が満たされることという意味が強調されます。
そして,心理学における構成概念としての「完全主義」の意味は,自分や他人や社会のなかで設けられた基準を完全に達成しようとすることです。そこには,必ずしも「立派な人間になること」「立派なことを成し遂げること」という意味が含まれるわけではありません。
そういうことを考えると,
心理学の研究では完璧主義よりも完全主義を使う方がよいのでは?
と思うのですがどうでしょうか。
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