
質問の問いが曖昧なケース
今年度も,いくつかの授業をオンデマンドで行っています。学生たちから多くの質問が寄せられますので,そのうちすべてというわけにはいかないのですが,できるだけ回答しようと試みています。
とはいえ,ひとつ教えていて感じることとしては,こういうことです。
◎毎年同じようなことに答えなければいけない
毎年,質問が出るたびに授業の内容をアップグレードしていきます。そして,学生たちが引っかかるようなポイントを少なくして,質問があまり出ないようにしていこうと試みます。
とはいえ,質問がなくなることはありません。なぜなら,どうしても授業の順番があって,後で説明することを先に説明することはできないのです。結果的に,毎年同じような質問が出てくることになるのですよね。そのたびに,「去年もその前も書いたなー」と思いながら,返答を書くことになります。
正反対とは
とはいえ,だいたいポイントはあるわけです。たとえば,こういう質問です。
◎環境によって性格が正反対になることもあるのではないでしょうか。
そのものではないのですが,だいたいこんな感じの質問です。こういった質問といいますか疑問は,そのなかで用いられることばの意味自体が共有されていないところが,回答をするときに難しいと感じる点です。
何を指すのか
この質問の場合,「正反対」です。パーソナリティが「正反対」というのは,何を指しているのでしょうか。
こういった質問が出てくるということは,性格が「外向型」「内向型」といったように,ある状態と別の「正反対」の状態があって,いずれかをとっているということが前提となるはずです。
ところが,心理学では性格をそのように捉えないので,「正反対になることもあるのではないでしょうか」と問われても,答えようがないのです。まるで,高問われているような感じです。
体重が正反対
◎環境によって体重が正反対になることもあるのではないでしょうか。
……答えようがありません。が,さっきの質問は,このように問われているようだということがわかってもらえればよいのですけれども。性格は「ある」「ない」の二値をとるわけではなく連続量で捉えると考えれば,あるひとつのパーソナリティ特性を体重のように考えることができます。すると,「正反対」が何を意味するのかが,よくわからなくなってきます。
もちろん授業のなかではこのあたりの話も説明していくのですが,まだ説明する前の授業回に限って,こういう質問が出てくるのがよくあることです。
どちらなのですか
これもよくある質問です。
◎性格は結局,遺伝で決まるのですか,それとも環境で決まるのですか
「結局」などないですし,「決まる」という考え方も,そもそもしないのですけれども,これも授業のなかで考え方自体を修正していく必要のある質問の仕方です。
この疑問についても,いくつかのポイントから成り立っています。
性格をカテゴリカルに考えている
カテゴリカルに考えるから,「結局どっちで決まるのか」という疑問につながるのではないでしょうか。「明るい」か「暗い」か,二者択一なのだから,何がその選択を決めるのか,考えてしまうのです。
決定因を考えている
何かが決定因になるという考え方自体も,適切ではないように思います。たとえば,喫煙はがんの原因になると考えられていますが,たばこを吸ったら必ずがんになるわけではありません。確率を変動させるような要因だと考えるのがよいのですが,そのような「原因」の考え方も,意外となじみがないのかなあ,と思ったりします。
考え方自体
授業をしていて引っかかるところというのは,知識そのものではなく「考え方」だと思う場面が多々あります。そこにアプローチをする授業を目指しているのですが,果たしてどれくらい効果があるのでしょうか。
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日々是好日・心理学ノート
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