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ダークな性格の持ち主の睡眠と学部選択

こういうことをする人は,どんな性格なのですか」という質問がよくあります。

実際には,「たとえそういう性格だからといって,必ずそういうことをするとは限らないのですが」というのが,まあ正しいだろうと思う回答なのですが,そうも言っていられないかもしれないな,と思うときもあります。

行動に裏づけられない概念など意味はない,とも思うからです。性格概念がそのまま目の前の行動に直接リンクしているのではないにせよ,確率的には行動頻度を変えるように結びついているはずです。

そして,実際に様々な行動との関連がこれまでに研究されています。まあ,全体的にゆるーく関連していることが論文で報告されている(なので目の前の人に「おまえはこうだ」と言えるようなものではないものがほとんどない)のですが……。

最近,日常のいろいろな行動との関連の研究で面白いなと思うのは,ダーク・トライアドに関連する研究です。


ダークな性格

マキャベリアニズム,サイコパシー,ナルシシズムという3つのパーソナリティ特性は,まとめてダーク・トライアド(Dark Triad)と呼ばれています。

マキャベリアニズム
人を操ろうとする,自分の目的のためには手段を選ばない,自分自身の利益に関心があり,人の利益をあまり考えない。

サイコパシー
共感性に欠ける,衝動の抑制があまりきかない,良心の呵責を感じない,恐怖心を感じない。

ナルシシズム(自己愛)
自分が好き,自己中心的,自分が特別な扱いを受ける権利があると感じる,自分への賞賛を求める。

とても簡単にまとめましたが,それぞれのパーソナリティ特性について,おおよそのイメージで捉えてもらえば良いと思います。

これら3つの特性は互いに正の相関関係にあり,ビリティッシュコロンビア大学のポールハスがこれらをまとめてダーク・トライアドと名づけました。

ダークな性格は夜型

ダーク・トライアドの研究は(特に海外で)非常に数多く行われていて,中には面白い研究もあります。

たとえばウエスタン・シドニー大学のジョナソンは,ダーク・トライアドとクロノタイプ(朝方か夜型か)の関連を検討しています。

それまでの研究で,ダーク・トライアドが恋愛しやすさに関連したり,無軌道な性交渉にも関連したり,さらには短期的な生活史戦略(生涯のパートナー数が多く子どもの数も多い一方で,子どもへの投資が少ない傾向)にも関連するという話があったりしました。

クロノタイプは,睡眠に関する個人差で,どのくらいの時間に寝て起きる傾向があるかということを表します。平たく言えば,朝方の傾向か夜型の傾向かを表すということです。

そして,ダーク・トライアドの各特性のさらに下位の要素が,それぞれ夜型のクロノタイプに関連することが論文の中で報告されています(ただしすべてではなく,ナルシスズムの下位尺度のひとつであるリーダーシップ・権威主義は朝方のクロノタイプに関連していました)。これは,ダーク・トライアド傾向の持ち主が,夜ぶらぶらと出歩く傾向にあることを示しているのかもしれません。

ちなみにジョナソンは,この研究でイグ・ノーベル賞を受賞しています。自分の研究領域に近いところからも受賞者が出るものなのだな,と思いました。

ダークな性格はどの学部?

ダーク・トライアドと学部選択の関連を検討した研究もあります。

たとえばこの論文では,大学の学部ごとにパーソナリティの差を検討しています。

結果は,大学の経済・ビジネスを専攻する学生の方が,心理学を専攻する学生よりもダーク・トライアドの得点が高いというものでした。

パーソナリティと所属学部・学科・専攻との関連を検討した論文というのは探すと結構あります。

たとえばこのイタリアの研究者たちの論文では,高校の最終年の生徒たちを対象に調査が行われており,大学進学後に選ぶ専攻を答えさせています。

ビッグ・ファイブ・パーソナリティを使っているのですが,外向性と勤勉性が,専攻の選択に関連していたそうです。そして,人文学は内向的で勤勉,経済学・法学は外向的,スポーツ科学や士官学校は勤勉性の低さに関連することが示されています。もしかしたら,国によってもパーソナリティと専攻の関連のしかたは違うのかもしれません。

ただ,どの論文でもたいてい,人文学・人文科学や心理学って,内向的で協調性が高いとか,おとなしい学生のイメージになっているようで,日本のステレオタイプと共通した特徴があるかもしれません……。

ただし,こういった研究結果を考える上で注意すべきことがあります。


関連の大きさを考える

こういった研究結果は,「関連」を問題にしています。ダークな性格とクロノタイプとの「関連」,ダークな性格と学部の「関連」です。たとえ平均値の差を扱っていたとしても,本質的に問題としているのは「関連」なのです。

その際に,関連は「ある」「ない」ではなく,「どれくらいか」を問題にすることが重要です。「関連がある」といっても,非常に小さな関連であれば,個人の実生活にとってはほとんど意味はないからです。

小さな関連は,大きな集団について問題にする際には意味があります。それは,政治や経済上の問題であって,大集団の方向性を決める場合にはその大集団の効率化につながる可能性はあります。1%何かを効率化できれば企業全体,国全体で大きな利益だと判断される場合があるからです。

目の前の個人がどうすべきかの判断材料にしても,その判断を何十回,何百回と繰り返せば意味はあるかもしれませんが,多くの人にとってある決断はそのときだけの問題です。そのような場合には,小さな関連にもとづいて判断をしてもあまり意味はありません(他の要素で左右されてしまう場合の方が多いからです)。

こういった「何かと何かの関連があった」というニュースを見た時には,「どれくらいの関連?」ということをぜひ考えてください。

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