
ナルシシズムの捉え方
今回はよく授業の中で質問も出てくるような問題について,簡単にまとめておこうという内容です。ナルシスティックなパーソナリティを題材に,その捉え方を簡単にまとめておきます。
ナルシシズム(自己愛)的なパーソナリティについての研究は,1980年代から盛んに行われてきました。
カテゴリか連続か
ナルシシズムというとナルシストを思い浮かべる人がいると思います。しかし,世の中に「ナルシスト」と「そうではない人」だけがいるというわけではありません。
ナルシシズムというのはパーソナリティ特性です。これは,ナルシシズムの傾向が「とても低い人」から「とても高い人」まで,数直線に並ぶように人々が存在することを表しています。そして平均くらいの「どちらでもない人」がいちばん多いという状態になります。
ひとつか複数か
また,一口に「ナルシシズム」といっても,数直線がひとつだけというわけではありません。ナルシシズムには複数の側面があって,それぞれがナルシシズムのある一側面を表しています。
たとえば誇大感は自分への強い肯定的な感覚を表しますし,特権意識は自分が特別扱いをされて当然という感覚,脆弱な側面は傷つきやすいプライドを持つような傾向を表します。いずれの側面も「ナルシシズム」を表しています。
たとえば,数学のテストの中に計算問題や方程式や図形の問題があるように考えてもらうと良いのではないでしょうか。数学のそれぞれの側面でありつつも,全体を「数学」としてまとめることもできます。
健康か病理か
ナルシシズムは自己愛性パーソナリティ障害という,一種のパーソナリティ障害を反映するものでもあります。そして,この考え方にもいくつかのものがあります。
たとえば,ナルシシズムの得点が高くなると病理的,という考え方です。とても極端なナルシシズム傾向をもつからこそ,病理を示すという捉え方ですね。
また,健康な側面のナルシシズムと,病理的な側面のナルシシズムが存在する,という考え方もあります。先ほど述べたように,ナルシシズムの中には複数の側面があります。その中には,病理的とされる側面と,健康とされる側面の両方があるというとらえ方です。
さらには,ナルシシズムが高い人が特定の環境に身を置くことで,病理的になるという考え方もあります。ナルシシズムそのものは病理的だとも健康だとも断言することはできず,ナルシシズムが高い人が特定の環境のなかで生活することで病理的に,別の環境のなかで生活することでより健康的になる,という捉え方です。
加えて,この考え方をさらに発展させると,どうしてナルシシズムが全体的に病理的になりやすいのかというと,社会の中でナルシシズムとの組み合わせによって病理的な傾向を示しやすい場面が多いからだ,という捉え方もできるようになります。社会が変化すると,ナルシシズム傾向が長所となる場面が増えることもありえる,という考え方へとつながっていきます。
いずれにしても基本は,ナルシスティックな傾向があるから必ず病理になる,というものではないという点にあります。まず日常生活に問題が生じ,その原因を探っていく中でパーソナリティの問題が浮かび上がり,そこからナルシシズムの問題へと行き当たるというイメージです。ですので,自己愛性パーソナリティ障害の診断基準をネットで探して「自分に当てはまるのだけれど,どうしよう?」と悩んだりする必要はありません。
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