プレスリリースは誇大広告か

研究結果を広く人々に知らせる「プレスリリース」は，頻繁におこなわれています。多くのニュース記事が，研究に基づいて書かれてSNSなどで広められていきます。企業も大学も，自らが関係する研究が広められることには肯定的です。

誇大広告

しかし，プレスリリースにはつきものの誇大広告的な側面というものがあるようです。今回は，書籍『Science Fictions』から，3つのポイントを見ていきたいと思います。

Science Fictions　あなたが知らない科学の真実

正当な根拠のないアドバイス

ひとつ目は「正当な根拠のないアドバイス」です。

科学的な研究から得られる研究結果というのは，さまざまな制約の中で得られるものです。結果を得るための条件は，決して現実社会のなかのような複雑ななかで得られるとは限らず，結果に影響する要因をいろいろな方法でコントロールして得ることが通常です。

また，研究で得られる結果は，世の中の全員に当てはまるという保証があるわけではありません。あくまでも確率的に見て，少しだけ確率を高める（低める）もの，という限定的な結果が非常に多いものです。

しかし，プレスリリースで報告される研究結果は，短絡的で直接的で，結果は強調されます。

異種間の飛躍

ふたつ目のポイントは，「異種間の飛躍」です。

たとえば医学や薬学の研究では，人間以外を使って研究がおこなわれることが多くあります。ラットやマウスを使って何かの効果が出たとしても，それを人間に応用できるかどうかはわかりません。あるいは，研究の段階としてはまだ培養された細胞上の現象に過ぎないかもしれません。

また，人間を対象としても，研究がおこなわれたのは欧米で，日本人に結果をそのまま適用できるかどうかが不明な状態であるかもしれません。

しかし，あたかも私たち誰もに適用できる研究結果であるかのようにプレスリリースに記述される，ということはよく見かけるものです。

相関関係は因果関係ではない

みっつ目のポイントは「相関関係は因果関係ではない」です。

このポイントは，少し統計について学べば必ずと言っていいほど強調されるものです。世の中で観察される「関連」という現象の大部分は，因果関係ではありません。それくらいの感覚で捉えておいた方が，バランスがとれているのではないかと思うくらいです。

というのも，私たちは「関連」を見ると，すぐに「因果関係がある」と認識してしまうからです。たとえば「コーヒーをたくさん飲む人はIQが高い」というプレスリリースがあったとしましょう。この現象が正しいとしても，背景にあるプロセスはさまざまなものが想定可能です。

◎コーヒーを飲むことがIQの高さの原因
◎IQの高さがコーヒーを飲むことの原因
◎IQが高いと学歴が高くなり，学歴の高い人々の間でコーヒーが流行している
◎IQとコーヒー摂取に共通する遺伝要因が関与する
◎社会経済的に裕福であることが，IQの高さとコーヒー摂取の両方に影響
◎単なる偶然

多くの条件を考慮して因果関係を導き出すのは，想像する以上に大変で困難が伴うものなのです。

慎重に

というわけで，プレスリリースされたからといって，すぐに「そういうものだ」と信じ込んでしまうことは要注意です。ほかの研究知見が積み重なったり，研究結果を統合するメタ分析をおこなったりすると，プレスリリースされた研究結果が覆ったりすることはめずらしくないことだからです。そして，それが「研究の進展」というものでもあるのです。