バイアスはなくなる方向へ進んでいるはず
以前も,潜在連合テスト(IAT)という心理学の心理検査の方法について書いたことがあります。カードを分類するようなやり方で,「似たもの」「違うもの」をできるだけ早く分類することで,何かを測定しようと試みるテストの方法です。
IATはふだんあまり意識されない,非意識的な態度やパーソナリティを特定する方法としてよく使用されます。
しかしこの方法,よく考えたな〜,と思うのですよね。本当に感心します。
カード分類
IATのイメージは,トランプを思い浮かべてもらうとよくわかります。
トランプのカードを手に取って,左右に分類しようと試みます。たしかに「左にダイヤとハート,右にスペードとクラブ」だと分けやすくて,スピードも速く分けることができますよね。でも,「左にダイヤとスペード,右にクラブとハート」という分け方だと,一気に分けるのが大変になって,時間も遅くなります。
そのカードの模様を変えて,カードの表面に顔写真と単語を書いておきます。そして,「左に白人の顔写真とポジティブ語,右に黒人の顔写真とネガティブ語」に分類します。さらにそれを入れ替えて「左に白人の顔写真とネガティブ語,右に黒人の顔写真とポジティブ語」と分類しようとすると,スピードが落ちる……それは「分類しにくいから」であり,分類しにくいということは「そういう潜在的な態度を持っているからだ」と考えるわけです。
このアイデアを思いついた瞬間に立ち会っていたらどうだろうな,と思うことがあります。自分自身でも,そういう経験をしてみたいですね。
IATの浸透
このIATは,webサイトでも試すことができます。そして,世界中の人がこのwebサイトを訪れて,IATを試しています。最近,このwebサイトで集められたデータを分析した論文も出版されました。
この論文がそうです(Patterns of Implicit and Explicit Attitudes: I. Long-Term Change and Stability From 2007 to 2016)。
実に,13年間で440万人がこのテストをこれまでに受けてきたそうです。この論文では,その間のIATの結果を,テストを受けた時期で分析することで,潜在的な態度が時代によって変化してきているのかを分析しようと試みています。
ちなみに,以下の記事に詳しく書いてあります。こちらを見てみましょうか。論文の著者たち自身が書いた記事です。
バイアスはどう変わったか
記事のタイトルは,「同性愛や人種に対するバイアスはどう変わってきたのか」です。
私たちの研究は、2007年からの10年間で、米国社会の態度の一部が大きく変わったことを明らかにした。同性愛者、黒人、非白人に対する潜在的な反感は、すべてニュートラルな方向にシフトした。
ということですので,実際に変化が認められたということのようです。
最も急速に変化したのは、性的指向に関する潜在的態度で、同性愛に対する反感は33%も低下した。しかも、このトレンドは着実に続きそうだ。統計モデルによると、同性愛に対する反感は今後も低下しつづけ、2025~2045年には(つまり私たちの多くが生きているあいだに)、完全に中立(バイアスゼロ)になる可能性がある。
同性愛者に対するバイアスが,いちばん変化が大きかったようです。日本はどうでしょうか。確かにテレビ番組,ドラマ,映画などでも取り上げられる機会が多くなっていて,日本でも少しずつ変化は起きていそうに思います。
さらにこの変化は、男性でも女性でも、異性愛者でも同性愛者でも、若者でも高齢者でも、そしてリベラルでも保守派でも幅広く存在する。なかでも最も変化が大きいのは、リベラルな若者の態度だ。
この記事に書かれているように,リベラルな若者たちの態度が一番大きく変化したそうです。でも,世代が変わって変化してきたというよりも,どの世代でも変化が起きているということがわかるだけでも興味深いですよね。
人々の態度はそんなに変わらないと思ってしまうこともあるかもしれません。しかしこの研究結果は,実際に人々の態度が変化しているという証拠になりそうです。
人種や肌の色に関する潜在的な反感も、ニュートラルに向けて変化している。人種に基づくバイアスは17%、肌の色に基づくバイアスは15%と、同性愛ほどではないが2007年からの10年間で大きく低下した。この変化はとりわけ近年顕著で、2012~2013年頃から変化のスピードが目に見えて上がった。
この変化は,社会のなかの変化にも連動しそうです。日本でも海外からの労働者をどんどん受け入れつつあります。地域によっては,大きな割合をそのような労働者やその家族が占めることがあります。そのようななかで,人々の態度がどのように変わってきているのかを検討する意義は,日本にもありそうです。
たとえば、高齢者と障がい者に対するネガティブな態度は、10年間で5%以下しか変わらなかった。変化があまりにも遅いため、統計モデルによれば、どちらかのバイアスがニュートラルに達するのは150年以上先になりそうだ。
ここは,少し残念なところですね。
実は日本は,世界的に見ても高齢者に対するイメージはよくありません。また,障がいを持つ人々に対する態度についても,自己責任論や「社会のお荷物」的なイメージで捉える人がいるような印象があります。自分が若い頃は,「自分が大人になったらもっと人々が暮らしやすい,お互いが人間らしく生きる社会になっているだろうな」と思っていたのですが,実際にはどうでしょうか。
何をすればそうなる,という答えがあるわけではないのですが,できれば社会全体が少しでも良い方向に変わっていってくれれば良いな,といつも思っています。自分の子どもたちのことを思い浮かべると,ますますそう思いますね。
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