研究者RPG(5):伝説的研究者の被引用回数
研究者たちが論文を書いて,それが多くの論文や発表で引用される。その数字が研究者たちのひとつの評価になっているというお話の続きです。
今回は,もっとすごい研究者たちの数字を見てみようと思います。
そこで被引用回数が10万を超えるすごい研究者たちと,すでに存命ではない伝説的研究者たちの被引用回数を見てみましょう。研究者ロールプレイングゲームとして経験値を積み重ねた勇者の姿を見ることができます。
過去の記事はこちらです。
→研究者RPG(1):研究者の評価
→研究者RPG(2):論文の被引用回数について
→研究者RPG(3):就職するための被引用回数
→研究者RPG(4):一流研究者たちの数字
過去記事でも書きましたが,私の被引用回数の総数は「たった1700」です。それを念頭に,ドラゴンボール的な,あるいはRPGにおける伝説の勇者的な世界の数字を楽しんでもらええればと思います。
研究者ではない皆さんにとっては,「研究者がこういう数字で表される時代になっているのだ」ということを知ってもらえればと思います。フォロワー数やアクセス数で勝負するネット上の世界と同じような世界が展開しています。
ではいきましょう。
目次
被引用回数10万以上
被引用回数が10万を超える研究者をピックアップしてみます。
まず,パーソナリティ発達の研究でも知られるカスピです。1960年生まれ。学会発表で名前が連なっているのを目にしたことはありますが,残念ながら面識はありません。
いったい何本の記事が出てくるのだろうと思ったら660本くらいあり,総被引用回数は12万近くです。そして被引用回数が上位20位の文献まで,1000回以上の引用がカウントされています。h指標が170ということは170回以上引用された論文が170本以上あるということで,i10指標が372ということは10回以上引用された文献が371本あるということです。そして1年間に,被引用回数が約1万ずつ増えています。何とも恐ろしい数字です。
次はNEO-PI-Rの開発者のひとり,コスタです。1942年生まれ。最近はNEO-PI-3も開発されていますので,そのうち日本語版も出版されるはずです。総文献数は650ほど,総被引用回数は13万以上です。やはりNEO-PI-Rのマニュアルがトップの被引用回数で2万4千以上。世界中でNEO-PI-RやNEO-FFIが論文や記事に掲載されるたびに,コスタの被引用回数が増えていきます。この研究分野において,尺度や検査を作ってそれが世界中で使われれば一気に数字が増えるというひとつの例です。
NEO-PI-Rの開発者のもうひとり,マクレーの被引用回数もやはり13万以上になっています。コスタと一緒に論文に名前が載っていることが多いですからね。
さて,社会心理学の大御所,バウマイスターです(「ボーマイスター」と書かれている書籍を見たこともあります。発音はどちらが近いのでしょう)。Google Scholarに表示される文献総数は990以上でたぶんもうすぐ1000本を超えます。総被引用回数は15万回以上。1953年生まれでこの業績数は驚異的です。最近は毎年1万5千回以上,被引用回数が増えています。その輝かしい研究業績の中でも,被引用回数の第1位はやはりneed to belong(所属欲求)の文献でした。この1本だけで1万6千回の引用です。
何年か前にイタリアで学会があったとき,日本人研究者仲間と夕食を楽しんでいました。そのとき,隣のテーブルで,その学会の招待講演者だったバウマイスターがひとりで夕食をとっていました。あとで挨拶すればよかったと後悔しました。
バウマイスターの著書『Willpower』の日本語訳が出ています。
バウマイスター以上の被引用回数の研究者って……
ひとり思い浮かびました。ポジティブ心理学の創始者,セリグマンです。1942年生まれで被引用回数16万以上。
セリグマンの場合,キャリアが長くて長期間ヒット作を作り出している点も,他の研究者には見られない特徴です。1位の文献はAmerican Psychologistに掲載されたポジティブ心理学の記事,次が1970年代の学習性無力感の文献なのです。長い時間をおいてヒット作を飛ばすのって,歌手や俳優でもなかなか難しいことだと思いませんか?
セリグマンの本の中では,『ポジティブ心理学の挑戦』という本がエピソードが多くて面白かった記憶があります。
ノーベル賞受賞者の数字
別格の研究者も紹介しておきます。ノーベル賞を受賞した心理学者であり行動経済学者,カーネマンです。被引用回数の数字は33万以上。さらに毎年2万5千回以上,被引用数が増えています。
カーネマンのかつての相棒,トヴェルスキーのプロフィールページもあります。すでに亡くなっていますので,誰かがページをつくったのでしょう。存命で新たな研究を生み出しているかどうかは,被引用回数の差に表れてきます。
カーネマンやトヴェルスキーの様子は,『行動経済学の逆襲』という本でもよく描かれています。
「まだ心理学者ではあの研究者がいる!」というお叱りを受けそうではありますが,あくまでも私がさっと思いつく範囲で,ということでこのあたりで。
発達心理学だとトマセロとか,自閉症スペクトラムの研究で知られるバロン=コーエンなども当然ながら被引用回数は多いです。スター研究者はそれぞれの分野にいるはずですので,(大学の残り少ない)夏休みの自由研究のつもりで調べてみてはどうでしょうか。
あの伝説の研究者は?
誰かがその研究者のプロフィールページを作らないといけないのですが……。トヴェルスキーのように,すでに亡くなった心理学者のページもいくつか存在しています。
たとえば,行動主義心理学の大家スキナーです。被引用回数は15万近くになろうとしています。2013年以降だけでも3万6千回の引用されていて,いまだにその影響力がうかがえます。
それから,20世紀においてもっとも影響力が大きい心理学者のひとりと言われる,発達心理学者ピアジェです。総被引用回数は36万以上,2013年以降だけでも10万に届こうとしています。
さらに,精神分析学者フロイトです。被引用回数はさらに増えて53万回以上。2013年以降だけでも17万回となっています。
ちなみにフロイトの晩年の姿については,『フロイトの脱出』という本が面白いと思いました。
ただこのあたりになると,どこまで正確な数字なのかがわかりません。誰が管理して文献を取捨選択しているのか,そういうことを誰かがしているのかどうかもわかりませんので。
しかし,このような伝説の研究者たちも現役の研究者たちと同じ土俵の上で被引用回数を競っているのは,なかなか面白い状況であるように思います。レジェンド選手が現役選手に混じって試合に出場する野球やサッカーのゲームを思い浮かべてしまいました。検索して見つけるだけでも楽しい作業です。
ちなみにダーウィンもいます。
それからいとこのゴルトンも。
統計学者フィッシャーのページもあるので探してみてください。
こう見てくると,自分の数字はロールプレイングゲームのごく初期段階程度なのかと悲しくなりますね。しかし,経験値を比べるのもおこがましいというのが実際のところです。
ですから,数字を見て「すごいな〜」と感嘆することを楽しみましょう。
シリーズ最後の記事はこちらです。
この記事はシリーズになっています。以下の記事もどうぞ。
研究者RPG(1):研究者の評価
研究者RPG(2):論文の被引用回数について
研究者RPG(3):就職するための被引用回数
研究者RPG(4):一流研究者たちの被引用回数
研究者RPG(5):伝説的研究者の被引用回数
研究者RPG(6):すごい研究者の日々
最後に
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