信仰と政府との補い合う関係
今回は,心理学で行われている宗教の研究についてまとめられている書籍『ビッグ・ゴッド:変容する宗教と協力・対立の心理学』について紹介するとともに,そのなかに書かれていた信仰と政府との関係についての一節を紹介してみようと思います。
信仰と社会の拡大
この本の紹介については,amazonの紹介ページに書かれているとおりなので,それを引用しておきましょう。
人類が1万2千年前に、狩猟・採集社会から大規模な農耕社会へ急速に変化することができたのはなぜか。この大きな問いに、人々を監視し罰する「ビッグ・ゴッド」の信仰の広がりが、社会の拡大に寄与したという説を提示することによって解答を試みる。宗教は、同じ信仰を持つ人同士の結束を強め、大規模な協力を可能にしたが、ときにはその機能が集団間の対立をも引き起こしたことが、心理学・文化進化論・宗教認知科学の知見から明かされる。
たとえば,人は実験的に宗教心を高める(宗教的な言葉を見たり,礼拝が行われる日曜日になったり)だけで,向社会的な行動が増えたりするようです。宗教には,「人々を監視し罰する」という機能があり,それが私たちが大きな社会を形づくるために不可欠の要素だったのかもしれません。
社会の機能
犯罪行為をすれば罰せられる,互いに助け合う,こういった社会のなかの機能は政府が担っているのですが,このような機能は政府が十分に機能していないときは宗教の役割でもありました。アメリカでも開拓して広い地域に人々が広まっていったときに,コミュニティをまとめるために教会が重要な役割を担っていたことが知られています。
そして,政府への信頼度が高くなると,その社会では無宗教の割合下増える傾向があります。
地球上で最も協力的で,信頼が厚く,裕福な社会,たとえば西欧や北欧の社会は,世界で最も宗教心が低く,政府への信頼度が高い。これらの社会では非常に高いレベルの信頼があり,法の支配が強い社会に住む人々は,法の支配が弱い場所に住む人々よりもはるかに協力的な傾向を示す。アジャム・シャリフと私は,プライミング実験によって,人が警察や裁判官などの言葉にあまり意識せず触れると,神に関連する言葉と同じくらい見知らぬ人の間で寛大さが増すことを発見した。同様の世俗的な概念は,宗教と道徳の間の精神的なつながりを断ち切った。宗教の文化進化的説明(本書の議論の骨子であるが)の強みの一つは,次の重要かつ広範に見られる事実に対応していることである。すなわち,宗教は文化や時代によって異なる形態をとるだけでなく,宗教的関与の水準は,特定の時代の特定の文化の元での社会的条件に応じて,予測可能な形で増減するのである。
神と政府
神と政府が補完的な関係にあることは,なかなか興味深い点です。政府の信頼度が低くなると,宗教の地位が高くなり,政府が信頼されると宗教の地位が低くなる。そんな関係も見られるようです。
神と政府は,社会や人々の心の中で似た特定の位置を占めているという証拠が,多く見つかっている。ビッグ・ゴッドは,政府が腐敗していて政府への信頼が低いところでは,最高位に君臨する。そして,政府への信頼が高まるにつれて,宗教は社会を支配する力を失う。これには少なくとも三つの説明がある。第一に,神も政府も,大規模な協力や信頼を促進する監視機能を持っている。第二に,それらはともに,逆境や苦しみのなかで安らぎを与えることができる。第三に,それらはともに,個人的なコントロール感が脅かされているときに,外部からコントロールと安定を提供することができる。
実際に,宗教はデンマークやスウェーデンなどの福祉国家ではもっとも急激に衰退している傾向が見られます。政府のサービスが手厚くなると,無神論者が増加していく傾向があるようです。さて,日本はどうなっていくのでしょうね。
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