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高校入試と知能検査(100年前)
1921年に発行された心理研究第20巻の記事に「高等學校入學試驗成績と精神檢査との相關に就いて」というものがあります。
ここでの「精神検査」というのは,今でいう知能検査のことです。
著者は心理学者の黒田亮先生で,Wikipediaには「旧制新潟高等学校教授などをへて1926年(昭和1年)京城帝国大学助教授」と書かれていますので,ちょうどこの論文が執筆された頃は新潟高等学校に務めていた頃です。
高等学校
この論文では,大正10(1921)年度の新潟高等学校の入学試験への志願者を対象としたデータを分析しています。文科268名,理科302名,合計570名という大きなデータが分析の対象になっています。当時のことを考えると,大変な分析だったのではないでしょうか……。
精神検査
この研究で用いられている精神検査は,「加算」「置換」「抹消」という3つの課題で構成されています。
加算は1桁の数字を足し合わせていく課題,置換は(おそらく)数字と記号を置き換えていくような課題,末梢は(おそらく)並んでいる特定の図形を消していく課題だと思います。それぞれ制限時間2分間で,集団実施されているようです。
これらの検査は学科試験が終了した翌日から翌々日にかけて,身体検査を済ませた人からおおよそ20名を1室に集めて集団で行われたそうです。身体検査もするのですね……。
相関係数
相関係数は,SpearmanのFoot-rule methodという方法で計算されています。入学試験の科目は,国語漢文,数学,英語,歴地化(歴史・地理・化学?)の4教科です。
結果はどうなったのでしょうか?
4教科の合計得点と精神検査との関連は,次のような結果になっています。
◎加算:0.110
◎置換:0.187
◎末梢:0.016
◎精神検査合計:0.110
どの結果も,とても低い相関係数になっています。4教科それぞれとの相関係数を見ても,いちばん高い関連で置換の検査と歴地化とのあいだの0.203の相関係数でした。やはり,あまり高い相関係数ではありませんね。
加えて,精神検査の3つの検査の間の相関係数も,あまり高いものではありません。
◎加算と置換:0.187
◎加算と末梢:0.110
◎末梢と置換:0.397
一方で,4教科の入試科目の間の相関係数は,中程度の関連が見られています。最低が国語と数学の0.279,一番高いのが英語と国語漢文の0.576です。
論文を見ていくと,やはり精神検査と入試結果との相関係数の低さが予想外の結果として捉えられているようです。もう少し詳しくデータを見てみたいところですが,100年前の論文ですのでどうしても情報が少ないのが残念です。
おまけ
さて,この論文の最後の次のコラムに,興味深い記述も見つけました。
9月24日の夕方,学士会館で,大槻快尊,上野陽一,古賀行義の3名が海外に向かうということで,送別会が開かれたという記事です。
大槻快尊は心理学者でありかつ真言宗智山派の僧侶,日本で海外の実験心理学を紹介した研究者です。
上野陽一は産業心理学者で,産業能率短期大学の設立者でもあります。
古賀行義はおそらくこの海外渡航で,ロンドンまで行きピアソンの元で学んで帰ってくることになるようです。1930年から1956年まで,広島大学の教授を務めています。
今から100年前,海外に渡航するのも大変な時代だっただろうと想像します(もちろん船旅ですしね)。しかし,こうやって海外の知識が日本に紹介されつつ,日本の心理学が発展してきたことが想像される記事でした。
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