読書感想文 万葉恋歌 日本人にとって「愛する」とは
※多摩川。みやもとまなぶ様の画像をお借りしました。
個人的な読書感想文
『万葉恋歌 日本人にとって「愛する」とは』 永井路子
私ってば万葉集が好き♥(ニワカ)
これを開いてくれた教養がにじみ出るみなさま。
万葉集について、授業で学んだことを覚えてらっしゃるでしょうか。
覚えていた方はさぞ国語も成績優秀だったでしょうな。
・・・
まず、全て漢字って夜露死苦、的なやつでしょ。
約4500首、約ってなんだろうね。
まあ、全ての歌を読むことはないだろうけど、
『古事記』『日本書紀』とも成立年代が近く、
素朴で大胆な歌に古代の息吹を感じて惹かれるものです。
この本はタイトルにある通り、万葉集の中の恋の歌を解説した、歴史小説家でもあった永井路子さんの1972年の文庫の再版。
「愛を語ってこれほど大胆な野生にあふれ、素朴で哀しく、しかも美しい彩りにみちた歌集は世界のどこにもないだろう」
「万葉人の恋の歌を味わいながら、日本人の心のかたち、愛の原点とは何かを探り出す名著。」(裏の解説より)
いつも図書館で万葉集や古今和歌集についての本を毎度借りてくるけど、
パラパラっと読んで読了せずに返却期限が来て、を繰り返していました。
・・・素朴な私の脳にはむつかしい古文はわかりにくいのさ。
でも割とサラッと読めてしまったのは、本が薄かったのと、
著者、永井さんの歴史的考察がなんともおおらかで、それでいて冷徹でハマったから。
もちろん期待していた、みずみずしい恋の歌の解説もありますよ。
あまりごちゃごちゃ書くとアレなので、一言にすると。
J-POPの歌詞は万葉の時代で出尽くしている。ということでしょうか。
恋した人には、わかるぅ、と共感できるパターンを古代の日本人はすでに歌にしている。そしてそれが現存しているということは、たいへん素敵なことだと思います。
恋路を母に邪魔されて辛いわ。浅い夢だから胸を離れない。高嶺の花ゲットしたぜ。二人で寝れば寒くないわ。きみが触ってくれた髪を梳かしたくない。あなたも同じ月を見ているかしら。会いたくて震えるetc.
有名・無名の詠み手によって、現代にも通じるフレッシュな愛が詠まれているのが万葉集なのです。
と、ここまではフツウな感想として、
本の後半で、著者が東歌(東国方言で読まれた民謡風の和歌)の中で一首あげるとしたら、ためらいなく取りあげるとして紹介している歌。
痛烈なインパクトを投げかけた歌を一首、ご紹介したい。
作者不詳なので、民謡のように伝わってきた東国の労働歌ではないかと言われます。
女性たちは空っ風に背中をまるめ、かじかんだ手に息を吹きかけながら、この歌を歌いつつ厳しい稲つきの労働を続ける。
様々な身分の人の歌が収録されている万葉集のレアリティを讃えるよりまず、著者はこの歌に言い知れぬ悲しみを感じるとつづります。
「この一首の歌の背後に広がる東国の農民の生活の、なんと暗く救いのないことよ・・・・・・。」
地方の働く女たち=奴婢(奴隷身分)であり、殿の若子は荒れた手をいとしんでくれるかもしれないが、たかだか性の慰みものにするだけで、彼女達が玉の輿に乗る機会は全くない。
仮に殿の子が生まれても、その子も奴婢であり、運がなければ防人(兵役)に召集されて辛い別れになってしまうかもしれない。
私、想像したこともなかったのです。近畿地方(都)の貴族と植民地のような東国(地方)の農民という格差を。
そのような世界で搾取されても憤ることもなく、慰みものであってもそれにすがりつきたい女たちの心情。
過酷で不自由で救いようのない世界を、
「明るい性の賛歌」「美しい農民の歌」とまとめるには浅すぎるわよと。
・・・
この問題は現代も変わらないばかりか、
生活は豊かになったはずなのに、さらに陰鬱なことになっている・・・?
執筆時の時点(1970年代)では、こんな風に挙げられています。
「まともに働いてもマイホームも建てられない」
「迫り来る環境汚染」
「他の自由を奪われているがゆえ、性の奔放に走るしかない閉塞感」
んー、令和の現代はどうか。
家電の進歩で手があかぎれることはないけど、
相変わらず弱者は虐げられ心は傷だらけです。
非正規雇用。地方格差。
弱者への搾取。
産んだ子を捨て置けば逮捕
産まなくても責められる。
結婚は相手と家次第の運ゲー。
育児への風当たりの強さ
子が不登校(これはウチだけか)
・・・・・・
・・・
これ以上は言うまい。
古代の歌のグロテスクな格差は、
現代もたいして変わっていないばかりか、ますます出口を塞がれている気がしますね。
どんよりした感じになってしまいましたが、
いかなる世にも、安寧なんてないし絶対の救いなんてない。
それは現代も古代も、たぶん未来も同じなんだと思うと、
この歌をサラリと歌っていた女性たちがいとおしいというか、
不思議と安堵するというか。
残酷な世界をどう生きるかは自分の気の持ち様次第。
美しい歌を詠んでも、メンヘラでも、クレーマーでも、悲劇のヒロインでも、女でも男でも、芯は野生の獣のようにしぶとく生きぬくだけ。
関西風に言うと、生きててナンボや。ということでしょうか。
それくらいしか今の私にはわかりません。
東歌、とっても興味が湧きました。
他にも、良いなと思った歌(本書に載っていないのもあるけど)
これは有名ですね。
才女の自虐風媚態。
藤原鎌足さんの有頂天。
以上、読んでくださりありがとうございます。
生きててナンボ。明日もしぶとく生きましょう。
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