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もっと幸せに働ける3:4:3理論

話を聞いてほしいと言われて、
コーヒーを買って二人でベンチに座る。
「なんかもう疲れちゃって」
「一気にやる気が失せました」と若者は言った。
トップとの今年度の最終面談が散々だったらしい。
平日は夜まで、土日も休まず働いている彼。
 
一言でいい。
「ここまでよく頑張った。お疲れ様」と。
「ありがとう」と。
言ってくれたら違ったのに。
ねぎらいの言葉は全くない。いつも。

『「ごめんなさい」とか「ありがとう」を
言ったら、死ぬと思っているかもしれないね。』
と言ったら笑ってくれた。
激務のとどめに言われた言葉は、
『休みに研修受けたりしないと伸びない』
「僕に死ねってことですかね。」
と大きなため息をついた。

「なぜ、やめずに先生を続けているの?」
そこに生徒がいるから。
でももう限界かも。
私の中にもある問いと答えが
彼の中にもあるようだ。
 
私たち大人は「あんな人だから。」
と諦めることができる。
私もそう思ってしまった。
ああ、あの人なら言いそうだと。
あなたもスルーする力も持たなくちゃ。
言いかけてやめる。
私たちには必要な力でも
熱意にあふれた初任者が身につけるべき力ではない。
 
帰り道にぼんやりと考える。
彼は怒っていた。
おかしいことはおかしい。
間違ってることは間違ってる。
私も通った道だ。
そう言うことでぶち当たる壁もあったし、
余分に流す涙もあった。
でも私はそれでよかったと思っている。

それなのに私は一緒に怒ってあげなかったな。
反省した。熱意に水をかけたかもしれない。
耐えることが大人になることではない。のに。
 
「学習性無力感」をご存じだろうか?
長期にわたってストレスの回避困難な環境に
置かれた人は、その状況から逃れようとする
努力すら行わなくなること。をいう。
 
ちゃんと抗わないと死んだ魚みたいな目をして
働くことになる。
どうすることもできないから、
と自分のケアをしなくなる。

せめて私は一年間怒りを持って働いた彼に
ブラボーと言おう。
願わくば、おかしいことはおかしいと、
ずっと怒りを持ってほしい。
それを受け止める職場であってほしい。
もっといい授業がしたいと思う先生が
そのまま頑張れる職場であってほしい。

上の立場の考える難しい理想はわからない。
分からなくていいと思っている。
世間の期待とか責任とかそんなの知らねーよ。
目の前で潰れそうな若者がいることが
わからなくなるほどの理想なんて必要あるのか?
都合のいい人にならないで欲しい。
どんな相手にでも、ちゃんと自分を主張できるって
大切な力だと思っている。
私たちが「アイヒマン」にならないためだ。

 
そんなことをぐるぐる考えていて
SNSに思いの一端を出した。
「仕方で済ませない。私さえ我慢すればいい。
で押さえ込まない」と。
そしたら、仲間からメッセージが届く。
 
「言えるよ、先生。
 たくさん読んだ本の力を発揮するときが来たね」

なんだか身震いがした。
本を読む私が試されている気もした。

「だね。このために言葉を鍛えてるんだもんね。」
と返す。先日読んだ本にも
「武器としての言葉をたくさんインストールする」
とあった。よーし、腕まくりの気持ちになる。
 
また、メッセージが届く。
「気負わずどうぞ」
 
見られている?見透かされてる?
振り返っても彼女はいない。(もちろん)

「気負わず。いい言葉じゃん」
いつも彼女は短く、それでいて
清々しく潔く刺さる言葉をくれる。
いつも優しく、とっても繊細であたたかい。
 
「言い負かすとか、説得じゃなくて。」
確かにラスボスを倒す気持ちでいくと、
返り血を浴びる。
相手が気づくかもわからないけど、
小さく刺して空気を抜く。
それくらいの気持ちで。
若者にはユーモアと勇気を与えて。
 
 
 
 
夕方タイムカードを押す前に
中間管理職的立場の先生とすれ違う。
以前、一緒に働いていた仲間だ。
あまりに疲れた顔をしていて思わず
「大丈夫?」と声をかけた。
彼は私を見つけて小さく笑って
「疲れたなぁ」と言った。
それから大きく息を吐いて
「俺、ほんとに疲れた。」
あまりに深かった。
「先生、死なないでね。」
思わず出た言葉がそれだった。
ちょっとびっくりした顔をした後、
先生は寂しく笑った。
セルフネグレクトも末期だと思った。
 
外は夕焼けだった。帰りがけの夕陽。
いつも大きな柱の間に夕日がきれいに沈む。
きれいに見える日は写真を撮る。

また別の激務の先生が夜食を買って戻ってきた。
勤務時間通りに帰るのは私くらいだ。
「まだ働くの?」
声をかける。
「ここいつも夕日がきれいだって知ってる?」
と言って夕日の写真を見せる。
「ほんとだなあ、知らなかった。」
その先生はこの学校勤続10年を超える。
「何年いて知らないのよ。」
「あなたは人間だなあ。
 人間の心がちゃんとある。」
あなたはなんなのよ?笑ったけど、
その先生は笑ってなかった。
苦しい。泣きそうになるのを振り払って帰る。
人間でいるために。

何でもっと幸せに働けないんだろう。
なにがそうさせるんだろう。 



私には先生になってから大学で学んだ一年がある。
そのときお世話になったM先生が
話してくれたことを思い出した。
「3:4:3理論」(三割四割三割理論)

「それっぽいけど何のエビデンスもないよ。
でも僕、結構信憑性があると思ってる。」
と先生いつも言ってたっけ。
 
『3:4:3理論』
集団には、3割の仲間と3割の敵?(抵抗勢力)
その間に4割揺れ動く人がいる。
「やりたいことをやる」のに必要なことは、
敵を潰すことじゃない。

4割を仲間に入れろ。
そして3割の仲間を励ませ。

7割が仲間になると、
抵抗勢力も理解を示すようになってくると。
 
いつもすぐラスボスを倒しにいこうとする私を
そうやってなだめてくれていた。
 
そうだった。
私のやり方で合っているはず。
私は今の場所に合ってはいないけど
それでも今の私でも救える誰かはいるはずだ。
そう思えば勇気が出る。

気負わずに、自分の武器の言葉を持って
私の仲間を増やすこと。
それがもっと幸せに働くために
私が出来ることなんだと今は信じている。

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