断捨離と手帳
物にはいろんな記憶や感情がくっついている。
履くと痛い靴を見れば、
若い頃の挑戦の気持ちを、
旅行写真を見れば、
旅先の空気感とジュースの味を思い出す。
気づかないうちに、
家の中には複雑な思いになる物が増えていた。
これからもたくさんの物を抱えて生きていくのかと、
息苦しくなった。
もう捨ててもいいよな。と思った。
子どもの不登校や家族のいざこざも十分悩んだし、
何よりウジウジ悩むことに飽きた。
断捨離とは物を整理するだけでなく、
暮らしや人生を整えていくプロセスだと聞く。
思い出も悩みも捨てて身軽になりたい。
よし!と心を決めた。
ずっと手放せなかった物をじゃんじゃん捨てた。
だんだん気持ちよくなってきて、
全部いらない気がしてきた。
しかし、これは…と手が止まったものがある。
それは 12 年分の手帳である。
私はメモ魔で、食事内容、体重、行った場所など
何でも記録している。
一番古い手帳は次女を出産した年の物で、
名前の候補がずらりと書いてあったり、
長女のかわいい言い間違えやお絵かきもあり、
ページをめくってはクスクス笑ったり、
懐かしくて泣きそうにもなった。
他にも読書記録や新聞記事、
グッときた言葉が書き込まれている。
その中に大好きな編集者、
一田憲子さんのハッとする言葉があった。
「テキパキ働いていないと
なんだか悪いことをしている気がするのは
休むのが、下手な証拠」とある。
教員として働き、
家事に育児に目が回るほど忙しい日々。
12 年も経てば、
少しは時間の使い方が上手になって
余裕のある人になっているはずだった。
12 年前も、今も、私は相変わらず休むのが苦手だ。
手帳に書き込んだ日々を振り返る。
いろいろあったけど、
休むのが苦手な自分を決して嫌いじゃない。
辛いことにぶつかりながら、
それでも前に進む自分を結構気に入っている。
それこそが、私らしさだとさえ思えた。
断捨離後、
残す手帳と手放す物を見渡して、
頑張ってきた自分を褒めたくなった。