見出し画像

【 詞 と 詩 】 歌姫とそこにあれ

歌姫とそこにあれ

忘れていた
多くの熱気と肩を並べて
おとぎ話に身を投じていたこと
それを知ってなお
平気な顔してステージへと向き直る

周りのすべてがマネキンに思えた
なのに今は怖くもないし辛くもない
熟れた空気にむせ込まないのは
楽に呼吸していられているってこと
たくさんの人影のそばで

空の青が海となり
日差しをちりばむ雨が降り注ぐ
火傷した靴底が微笑み出し
かざした先へと誘われる
彼女の詞と響きが無差別に
影たちの無関心を濡らしていけば
僕はイリヤとだって踊り
踊らされ
手を取り踊る

人形が照らされ
影絵が紡ぐ
それは普遍的ストーリーのパロディ
僕だけに歌われた歌じゃないからこそ
ここにいてもいいんだと思わせる
誰かと分かち合う呪いとなる
決して一人ではない

全てを覆すほどの
雫のタクトが振るわれる
100万人のための彼女がフロアに微笑めば
誰一人の孤独も諦めない
寄り添うおとぎ話が加速するはずさ

浮かぶ空の青が海となって
日差しをちりばむ雨が降り注ぐ
皆が答えを一つにした時
そこには誰がいるのだろうか
そんなことを思いながら
僕らはイデアとだって踊り
踊らされ
手を取り踊る

――――――――――

明日の叙景、ボーカルの布です。
聴く「詞」と読む「詩」という二つの側面を持つ歌詞についてゆるく書いていきます。
今回は2nd Album「アイランド」より「歌姫とそこにあれ」について書いていきます。

他人と意見が合えば嬉しいし、意見が食い違えば悲しい。
自分が良いと思ってること(作品でも、意見でも)が誰からも肯定してもらえないと、それを信じることが難しくなります。
それでも自分を信じたものだけが成功するんだ!なんてエリート思考はひとまず置いておき、やっぱり自分が好きなものを他の人も好きだったら安心すると思うんですよね。

歌詞を簡単に説明すると、自分に自信を持てない主人公が歌姫に魅了される群衆に溶け込むことで「自分は大丈夫だ」と思う歌、とでも言えばよいでしょうか。

歌詞の中には哲学用語としてレヴィナスの「イリヤ」とプラトン「イデア」が使われております。
歌詞の中では「イリヤ」を決して理解し合えず、答えを出せないでいる個人の象徴として用いております。
対照的に「イデア」を全員が納得する答えを得て完結した、全体の象徴として用いました。

確かに誰とも意見が食い違わず、諍いの起こらない世界というのは快適なのでしょう。
ただ、それは消化試合といいますか、乗り越えるべきことがなく、何もすることがない状態になってしまわないでしょうか?
理解できない相手と「あーでもない、こーでもない」とコミュニケーションを取り「こいつと俺は同じ世界を見えているわけじゃないから、何度でも確認し合わないと」と思えたら、きっと素敵な堂々巡りになると思います。
多分。
そう思うからこそ「イデア」優位で終わるこの歌詞は邪悪です。

ちなみにメンバーからは最初「『イリヤ』って『イリヤの空、UFOの夏』から取ってる?」と言われました。
公式がなんと言っているかは知らないのですが「イリヤの空、UFOの夏」はレヴィナスから取っていると思っています。
ユダヤ人であるレヴィナスはホロコーストによって沢山の仲間を失いました。
そして大戦後、何事もなかったかのように暮らす人々で溢れるのを見て、他者という存在を不気味に思ったそうです。そのような半生を経てレヴィナスは「イリヤ」という思想に至ります。
対して「イリヤの空、UFOの夏」では、ヒロインが世界を守るため、命がけで謎の敵と戦っていることを人々は知りもせずに日常を送っています。
この断絶にも似た感覚から、レヴィナスの「イリヤ」がモチーフになっているのではないかと感じました。

最後にこの歌詞における「歌姫」の役割について。
「イデア」を司る「歌姫」は勿論、悪役であり、人々を完成という名の思考停止に陥れる「扇動者」として描いております。

人々を甘い夢で絡め取る、大いなる力を持ったカリスマには責任が伴う。
そんなコンセプトで今度は歌詞を書いてもおもしろいかもしれませんね。

踊り
踊らされ
手を取り踊る

サビで登場する三段フレーズは特にお気に入りです。
まずは主人公が無意識に「踊り」
次に歌姫(あるいはその背後にいる仕掛け人?)によって受動的に「踊らされている」ことを自覚します。
そして最後、安寧を受け入れ、跪くように「手を取り」能動的に踊る。

インストに対して、中々みっともない歌詞を書いたものです。

余談ですが「全体」「同調」「扇動」といったキーワードは2nd EPに収録されている「修羅」の歌詞にも通ずる点があります。

それでは次回は「美しい名前」について書きたいと思います。
お楽しみに!

▫ライブ情報

2024.11.27(水)名古屋鶴舞DAYTRIP
Solo Concert “Island in Full” -extra-
LivePocket
https://t.livepocket.jp/e/daytrip_241127
zaiko
https://vinyljunkie.zaiko.io/item/366577

2024.11.28(木)大阪Yogibo META VALLEY
Namba Culture Terminal 2024 -1st Anniversary-
with OGAHM / OLPHEUS / SheeSawHarm / VISION OF FATIMA / 雲雀
イープラス
https://eplus.jp/sf/word/0000159672

2024.11.30(土)川崎 CLUB CITTA'
MIXED HELL 2024
with PassCode / 花冷え。 / JILUKA / VMO / kokeshi / KANDARIVAS / Launcher No.8 (Opening Act)
イープラス
https://eplus.jp/sf/detail/4187970001-P0030001?P6=001&P1=0402&P59=1


いいなと思ったら応援しよう!