この糸切ってもいいと? 叶
ブランドに疎い。
事前に「絶対に切らないでね」と念を押されてない限り良かれと思ってマルジェラのステッチを切ってしまうタイプだと自覚している。
そもそもマルジェラなるブランドの存在を知ったのもつい最近のことだった。
ここ数年美容院で待ち時間に出されるファッション雑誌でも『大人だからこそ、良いものを』のように、
ブランド物を紹介するコーナーが目立つ。
美容院で出される、というのがミソだ。
わざわざ書くようなことではないのでここでは省略するが、
わたしはとある事情により自分でファッション雑誌を購入することはない。
自分で買うことはないが、
きっと美容院で差し出される雑誌こそがわたしの年齢層の流行にピッタリ当てはまるものなのだろうと理解している。
美容院が流行を取り入れてなかったら、流行なんて代物がどこにあるのかわたしには見当もつかない。
話は逸れたが一応わたしにもブランド物を持ってみたいという憧れはある。
憧れのブランド第一位にはCELINEを据えている。
巨万の富を得たら全身をCELINEで固めたい。
デザインに落ち着きがあり、ロゴも煩くない。
すべてが上質、上品を体現している。
CELINEに拘らなくともBALENCIAGAやPRADAあたりにもおそらく喜んで飛びつくだろう。実際憧れてはいる。
そして噂によるとハイブランドの財布やバッグというものはなんと壊れにくいらしい。
これはもう、先行投資として買うっきゃないよねと思うが金銭面以外にも問題がある。
そのへんに売っているノーブランド品も、
わたしの目にはお洒落で素敵に見えてしまうのだ。
物を落とさない、忘れない、壊さないことに定評のあるわたしはそのへんの雑貨すら本来の寿命以上に長く使えてしまう。
となると、わたしにはデザインも実用性もそのへんに売っている財布またはバッグですら有り余るのである。
わたしがハイブランドのバッグなんて買おうものなら2112年にドラえもん誕生を祝うパレードでも携えていることだろう。
なお、わたしの寿命は400歳と仮定する。
さて、ブランド物にはちょっとした憧れがあるとはいえわたしにも苦手なデザインがある。
ブランドロゴのモノグラムが布地いっぱいに広がっているあのデザインだ。
前の職場の元上司が好んで身につけていたのをよく覚えている。
それはもう、すごかった。
財布もバッグもネクタイもスマホケースすら同じ色で同じ柄のモノグラムだったので、
わたしの目はずっとチカチカしていた。
そしてその元上司は出社一番に「また喧嘩してやったよ」と今朝の武勇伝を嬉々として語ってくるような、
元気でチカチカしているタイプだった。
物理的精神的チカチカから距離をとるため、
その元上司と話すときわたしは常に少しだけ瞬きを長めにしていた。
わたしはそのチカチカがどうも苦手で、
もし自分がブランド物を手に取ることがあった場合には真っ先にモノグラムデザインを除外することに決めている。
結局は大枚はたいてハイブランドで全身固めるよりも、
上質で上品な人間になる方がおそらく遥かに難しいのだろう。
こんな意地悪言っちゃうんだから、
わたし自身上質上品な人間になるための道のりも遠い。
それではまた。