おいしいおいしい夏野菜 feat.私じゃネットはめくれない もりたからす
夏になると親戚の住む村へ行くのが恒例になっている。今年もつい先日、遊びに出かけた。
村へは車で1時間、道中ひたすら標高を上げるのでさすがに気候が街とは異なる。それでも30℃を軽く超えるのだから、今年の夏は格別暑い。
平成の大合併を乗り越え独立を続けるその村だが、空を仰ぐと明らかに人口よりトンボの方が多い。見下ろすとトンボより更に多数のアマガエルがいる。
さっきまで屋内にいたはずの親戚の肩には信じられない大きさのバッタが止まっているし「自然が豊か」というレベルを逸脱している。
「この頃はこの辺りもぐっと進歩してきたから、ほら、あそこにあれが新しくできた」と親戚が言うから、スタバでも進出したのかと思い見ると、クマ対策の電気柵が新設されていた。
そんな親戚が畑をやっているので、村を訪ねるたび、夏野菜をわんさか貰う。
ここの野菜はいずれも過剰においしい。あまりのことに私は手土産、お礼の電話、お中元、お歳暮を欠かさないほどだ。その反動で年々、貰う野菜の量が増えている。
当初は「こんなに食べきれるかなー」、「一夏分の栄養がまかなえちゃうよ」程度だったものが、今年などはほぼ致死量である。仕入れの桁を間違えて途方に暮れる八百屋の気持ち。
それにつけても思い出すのは昨年の夏、村を訪ねた折のことだ。
「裏の畑にトウモロコシがあるから、好きなだけ持ってけ」と親戚が言った。大喜びで好物の収穫に向かうと、そこには一面、緑のネットがかけてあった。
聞くと、主にムジナによる食害が多く、鳥獣避けとして設置したものという。
このネットが、どうやってもめくれない。
完全二足歩行を選択することで両手の器用さに特化したホモ・サピエンス・サピエンスの平均的個体であり、鳥獣避けネットの想定する対象動物の知能上限を優に突破しているはずの私が、散々苦労してもトウモロコシに届かないのだ。
この由々しき事態に接し、私は速やかに親戚を呼んだ。
「それじゃムジナ並みだ」と大笑いしながら親戚は、さっと手を入れ自由自在にトウモロコシをもぎ取った。その事実が、私には今もって信じられない。
今年の夏、親戚の畑に立ち周囲を見回すと、例のネットの村内普及率が明らかに上昇していた。
「あのネット、試しに使ってみたら街から来る大型の哺乳類にも効果あったよ」などと村中を吹聴して回る親戚の姿が目に浮かぶ。
絶対に許せないので、今年のお中元は高級素麺を送りつけてやった。
ところで、村から持ち帰った夏野菜はあまりに多く、近所に暮らす身内にお裾分けした後でも、変わらず私は途方に暮れている。
黄ズッキーニ、モロッコインゲン、赤ジャガイモ、紫アスパラガスをまとめてぶちこんだカラフル味噌汁がこの夏の主食だ。