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全創作者に見てほしい!『ルックバック』映画レビュー
藤本タツキ先生の読切漫画『ルックバック』が映画化されたというニュースに心を躍らせたのは、私だけではないはず。
『チェンソーマン』で知られる彼の作品がスクリーンでどう描かれるのか、期待と興奮を抑えきれなかった。
上映初日、仕事が終わると同時に映画館へ走り込んだ私は、心のどこかで自分も主人公たちと一緒に「何か」を取り戻せる気がしていた。
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物語の始まりは、小学4年生の藤野と、学校に通わず家で絵を描いている京本という少女の出会いからだ。
学年新聞に載せる4コマ漫画をきっかけに交わる二人の世界。
描くことの苦しさ、誰かに認められる喜び、共同制作の楽しさ、そして、ふと創作を辞める瞬間の唐突さ——。その全てが、まるで心の中に潜んでいた「表現者としての自分」を呼び起こすかのように響いてきた。
自分の過去に繋がる物語
実は私も、小学生のころは絵を描くことが大好きだった。
年下の従兄弟たちに手作りの絵本や紙芝居を作って喜ばれるのが嬉しかったし、周りから「絵が上手だね」と褒められると誇らしい気持ちになった。
幼稚園時代には絵のコンクールで賞を取ったこともあり、それが自分の自信になっていたのだと思う。
だからこそ、藤野が漫画を描き始めたきっかけや、友人から投げかけられた言葉が、痛いほど胸に響いた。
「最近のはるちゃん(私の名前)、絵ばっかり描いてつまんない。」
小学生だった私は、その言葉に怯えた。
友達に嫌われるのが怖くて、休み時間に絵を描くのをやめた。それどころか、人前で絵を描くこと自体を避けるようになっていった。
今思えば、ほんの些細な一言だったのに、そのときの私には重すぎた。学校生活は忙しく、あっという間に過ぎていく。そんな中で、絵を描く時間を削ることで、友達との時間を守ろうとしたのだ。
学校に行って授業を受けて、休み時間には友達と遊んで、放課後は習い事に行って、家に帰れば宿題をして寝る——。振り返れば、自分だけの時間なんてほとんどなかった。その代わりに「友達に嫌われたくない」という思いだけが自分を支配していたように思う。
でも、絵への想いは心のどこかに残っていた。
描くことをやめても、絵を描いている人を見るのが好きだった。絵を描く配信を長時間眺めてしまう今の自分も、その名残なのかもしれない。
描き続けた主人公への憧れ
中学生になると、周りには私よりも絵の上手な子が現れた。
それを見て「自分には才能がない」と感じ、絵を描くこと自体を完全にやめてしまった。描くことが楽しかったはずなのに、いつしか「自分の描いた絵なんて誰の目にも留まらない」と思い込むようになっていた。
けれど、『ルックバック』の主人公たちは違った。藤野も京本も、それぞれのやり方で描き続ける。自分の限界を超えようとする姿に、私は羨望と悔しさが入り混じった感情を覚えた。もしも私が、あのときもっと自分の絵に向き合っていたら、何か違った未来があったのだろうか——そんな想いが、頭をよぎった。
しかし、主人公たちにも描くことをやめる瞬間が訪れる。その姿に、私は深く共感した。創作を続けることは本当に難しい。
自己満足のためなら、やめたっていいじゃないか。
誰かに承認されなくても、描くことに意味を見出せなくても、やめる権利は自分にある。
それでも、心のどこかで「本当にそれでいいの?」と問いかける自分がいるのも事実だった。
心に響く「ファンだった」の言葉
漫画を描くのをやめてしまった主人公に「ずっとファンだった」と告げる存在が現れる。その言葉の後、泥だらけの靴でスキップする主人公の姿に、私は涙が止まらなかった。
誰かが自分の作品を認めてくれていた、その事実がどれだけ人を救うか。
私も心の中で、主人公の頭を思い切り撫でてやりたくなった。
実は、私にも似たような経験がある。大学生のころ、小学生時代の友人に再会したとき、こんなことを言われた。
「実は、あのころのはるちゃんの絵が大好きだった。」
その言葉は、私の心に甘くて柔らかな光を灯した。絵を描くことをやめてしまった自分への後悔が、少しだけ癒された瞬間だった。
帰りの車の中で、私は何度もその言葉を思い出してはニヤけていた。その友人には今でも感謝していて、何かお祝い事があれば必ずメッセージを送っている。
創作するすべての人へのエール
『ルックバック』は、創作に携わったことのあるすべての人に刺さる作品だと思う。
描く苦しみ、認められたい欲求、挫折と後悔、そして再び立ち上がる力——それらが美しく描かれている。
何かを表現するという行為は、時に孤独で、苦しくて、報われないように思える。それでも、その先にはきっと「あなたのファンだった」と言ってくれる人がいる。
この作品を観たあと、私は自分の過去を見つめ直すことができた。そして、創作をやめてしまった自分にも、少しだけ優しくなれた気がする。
あなたが創ったものは、決して無意味なガラクタじゃない。
それが誰かの心に届いていたことに、いつか気づく瞬間がきっと来る——。そんな力強いメッセージを、この映画から受け取った。
創作する全ての人に、この映画を観てほしい。
そして、もし観たなら、ぜひ一緒に語り合いましょう。
あなたの感想を聞かせてください。
この作品が、あなたにどんな想いを届けてくれたのかを知りたいです。
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