読書感想文03 ぼくはあと何回、満月を見るだろう/坂本龍一

読むきっかけとなったのは新潮(文芸誌)。坂本龍一さんの特集だった。これは特集読む前に『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』を読んでおきたいと思ったのだ。タイトルにも装丁にも惹かれた。

わたしがこの本を読むまで、坂本さんについて知っていたことといえば、『Merry Christmas Mr.Lawrence』のみだった。あとはガンで闘病生活を送っていたこと。けれどこの本を読んで、坂本さんが多くの映画音楽をつくってきたこと、海外含めライブ活動を行っていたこと、そして…社会問題と対峙し、様々なプロジェクトの旗手として活躍されていたことを知った。
このさまざまなプロジェクトや、そこに対する坂本さんの思いが、わたしにとって1番印象に残ったことだった。その中から2つ取り上げたいと思う。

どのようなことを坂本さんが問題とみなし、政府や社会に訴えてきたのか。まずは本編で何度も触れられている『原子力発電の問題』。『さようなら原発10万人集会』で、原爆での悲惨な被害を踏まえて、リスクのある原子力発電は廃止すべきだと坂本さんは訴えた。わたしも同意する。福島は震災での原子力発電所での放射線被害により、長らく立ち入りができなかったり、いまだに人口0人の自治体もある。あまりにもリスクが大きい。それに、原子力発電所はいくつもあるから、もし多くの原子力発電所に同じようなことがあったら、日本に住めなくなってしまうかもしれない。それは多くの人々にとって、マイナスの感情や、苦しみしか生み出さないのではないか?と思う。発電方法なら多くあるし、海外や地方の事例から参考にできるところもあるだろう。坂本さんも発電方法はひとつではない、わざわざリスクの高い発電方法をとる必要がないと本書にて発言されています。さらに、『人間の命と電気どちらが大切だろうか』とスピーチで問いかけたはずが『たかが電気』と、このワードだけが取り出されて世論で非難を浴びたことに関しても本作では言及されています。

本作の後半、亡くなる2年ほど前から残された短い日記が、本人に代わり書かれたあとがきの方に載っていた。そこにはなんと『優生思想』に関する記述が。これは、自身が勤務先で関わるプロジェクトの核の1つである思想である。だから、びっくりした。とともに、嬉しくなった。
日記には、『より高く、より速くという競い合いに熱狂するというのは、優生思想に極めて近い。そうでない社会を目指したい』とある。優生思想って『生産性のあるものが価値が高い』ってことで。そういう考え方のことで。障害者を産まないために、新たに産まないために強制避妊をさせる考え方であったりとか。それってある一定の人を『価値がない』って切り捨てて、権利をある程度取り上げて苦しい生活を強いるってことなんじゃないかと思うんです。だから自分もこの考え方は嫌い…なんだと思う。でも幼い頃から言われて身に沁みてる部分もあって、これは優生思想に通じるって気付けないことも多々ある。それについては、これからプロジェクトに関わってもっと色んな人と話を聴いて対話して、気づけるようになりたいし、レーダーは働かせていたいと思います。
んで坂本さんの言っている『より高く、より速くという競い合い』は資本主義を感じる言い回しだし、それにこれは『より高く、より速くができない人は知りません。いりません。切り捨てます。勝手にしてください』みたいなことだと思う。わたしは『仕事の覚えが遅い、言ったことが覚えられない』と注意されて落ち込んだことが何度もあるから、この言葉を読んでしんどかった。だからこれに関しても坂本さんと同じ意見といえるかもしれない。すべて同じじゃないとは思いますが…。

以上、坂本さんがこのような発言をしていたと今まで知らず、共感と驚きと興奮の渦中で書いた言葉たちでした。

この本を手に取り、わたしは坂本さんのことを好きになった。坂本さんの考え、人となり、音楽との向き合い方、同じ業界に身を置く人のみならず多様な人々との交流。大変面白く読むことができた。(ただし思いの外、量が多く、なかなか読み終わらないな〜とは思っていた)
大変意義のある時間だったし、自分の頭に残ったことは多い。

今は新潮8月号の特集『「坂本龍一」を読む』を読んでいる。これも読み終わったら、新潮に収録された他の作品(といっても興味のあるもののみ)とあわせて感想文を書いてみたいと思う。

今度こそ終わり。

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